第11話 解ってた。香が可愛いのなんて…。

そして、菊菜が香に言った事をすべて、裏庭で話してしまった。

プライドの高い菊菜が、頭を下げ、敬語を使った事も包み隠さず。

「そっか…美崎、そんな事してたのか…」

「き…菊菜ちゃんの事、悪く思わないでくださいね!菊菜ちゃんは誤解してたみたいですが、本当に長谷川さんの事が好きなだけなんです。あ、後、菊菜ちゃんは誤解してたみたいですが、私が長谷川さんを…好き…と言うのは、えっと…つまり、とっ友達としてでして…それでも、菊菜ちゃんには不快な存在なんです、私…」


「なぁ、本当に前から、気になってんだけど、葉月ってなんでそんなに美崎の事好きなの?なんか深い恩でもあんの?」

それは、夜与が菊菜と香の関係を見て来てず――――っと纏わりついていた疑問だった。

前に、『菊菜ちゃんの奴隷なら喜んでやります!』と言ったり、『菊菜ちゃんは完璧な人だ』的な事を言ったりしていたのを言ったりていたのを聞いてから、もっともっと解らない難問だった。



「菊菜ちゃん、私が幼稚園でのお姫様ごっこしてて、お姫様菊菜ちゃんで召使が私だったんですが、長谷川さんにつなぎ合わせてくれた元の写真を見て言ってくれたんです…



『やっぱり、最後に召使がシンデレラになれるんだよね』



私には最大の賛辞でした。



私があの写真を持ち歩いてたのは、菊菜ちゃんがそう言ってくれたからなんです。とてもとても嬉しかった…」



「そうだったんだ。なるほどな」

夜与は二人の絆が見えた気がした。

「あ、後は、これは私にも分からないんですが、前に、菊菜ちゃんが言ってくれました。『香は花火で言うなら線香花火ね』って」

「なんで?それも誉め言葉なの?」

「解りません。でも、菊菜ちゃんは、そんなに皆さんが思うよりお姫様気質でもありませんし、繊細で、優しい人なので、きっとこれも何か法則が解れば、誉め言葉をもらったんだ、って思ってます」


「じゃあ、その謎、今度の秋祭りで解るかもな」

「へ?」

「祭り、美崎だけじゃなく、葉月も一緒にって美崎に言っといたから。まぁクラスの奴も沢山来ると思うけど」

「そう…ですか。この事、菊菜ちゃんには…」

「言わねーよ。。美崎が俺の事そんな想っててくれてたなんて思ってなかったし。傷つけるような事もしたしな。葉月、ゴミ捨ては来い!」

「…はい、ありがとうございます」



夜与は教室に入ると、菊菜にそっと言った。

「なぁ、花火、すげーの?秋祭り」

「うん!行く気になった?」

嬉しそうに菊菜が高い声を上げた。

「あぁ、ちょっと。その時聞きたいことがあるんだけど、良い?」

「ん?今でもいいよ?」

「いや、祭りで聞きたいんだ」

「ふーん。そう…。ま、いいや。気乗りしてなさそうだったから心配してたんだけど、行く気になってくれて嬉しい!」

屈託のない笑顔を見て、香が言っていた“いい人”と言う言葉が少し理解できた夜与だった。




中間テストを終え、後はお祭りを待つばかりとなった。

「あー、楽しみだね、秋祭り!夜与!」

「あ、あぁ。あと井田と河合も誘ったから、そっちも女子二人くらい誘っといて」

「え?二人きりじゃないの?」

「うん。大勢で行った方が楽しいじゃん」

「ん――――…うん。まぁ、解った。じゃあ、時計台の前でね」

「おう、じゃあな」




―祭り当日―

「おう!全員そろったな。じゃあ、出店で何か食おうぜ」

「うん!私たこ焼き食べたい!」

夜与の隣には菊菜が陣取り、腕を離さなかった。

しかし、菊菜に頼んだ香が来ていない事が裏切られたと思っていた。

そんな事関係ない四人は、浮き浮きしてお祭りを楽しんでいる。

つつがなく出店を食べ歩きし終えると、花火の時間が来た。


「ここ!ここ特等席なの!めっちゃ穴場なんだよ!」

菊菜が笑う。

時計台の右を行き、徒歩では結構な遠さだったけれど、そこは確かにすごい穴場だった。ビルも木々も何もなく、菊菜と夜与のグループいなかった。


到着して三分ほどで花火が始まった。

「危なかったなー」

「ねーでもめっちゃ奇麗…」

次々上がる花火は何とも言えず奇麗で、迫力圧倒された。

みんな打ち上げ花火の光につられて顔がキラキラしていた。

三十分続いたう打ち上げ花火も終わり、


「じゃあ、帰ろっか」

そう菊菜が言おうとした時、夜与が誘った河合が、

「ちょい待ち!俺これ持って来たんだよね!」

とトートバッグから、あるものを取り出した。

「あ、それ!あたしも持ってきちゃった!被ったね」

「マジ?俺みんなの分だと思ってこんなに買ってきたのに、バイト代返せー!」

みんなから笑いが起きた。



三人が持ってきたもの、それは―…




線香花火だった。



すると、菊菜の顔が変わった。

その菊菜をよそに、河合や菊菜が誘った女子も線香花火を楽しそうに光らせている。




「やっぱり…最後は線香花火だよね…」

菊菜が呟いたのを、夜与は聞き逃さなかった。

「なぁ、何?今の。最後は?線香…花火?」




「昔からそうじゃない?いくら大きな花火が上がっても、最後にみんなの心に残るのは、昔ながらの線香花火なのよ。打ち上げ花火が♡や☆になっても、線香花火は昔のまま。まるで地味だけど人の心をつかんで離さない香みたい…」




「…好き…なんでしょ?香の事」

「美崎…」

「あぁあ…やっぱりあの子には敵わない!シンデレラになれるのも最後にみんなの心に残るのも、地味だけど、優しい香みたいな子なんだよ」

線香花火だけの、光しかなかったから見えなかったけれど、菊菜は泣いていた。

「あの子は、いつもあたしのしもべみたいになっちゃてたけど…夜与を好きになって、解ったの。香も夜与を好きだって。だってゴミ捨てだよ?二人で楽しそうに話してるの聴こえちゃったし、あたしは一人暴れてたけど、香が本当に夜与のお姫様みたいで、嫉妬しまくってた。ごめんね、邪魔して」

「美崎…」

「はいはい香でしょ?嘘ついたりはしないよ。三十分待ってて…。じゃ」


香には、浴衣着て来い、たったそれだけのメールが届いて、香は菊菜しかない、穴場に、来る。


「美崎!俺お前の事見直したぜ?実は美崎が頭下げた事聞いたんだ。それくらい、俺みたいなやつ、想ってくれてありがとうな。美崎にはもっといい王子様が…」

会話の途中でいきなり夜与が吹き出した。

「なんだこれ。もっといいって!お前と葉月がお姫様とかちっちぇー頃からのようにからそのままで呼び合うから、俺にまで移った」


「当たり前でしょ。あたしが変えてあげたんだから。香は今夜、夜与のお姫様として登場するから、ちゃんとエスコートしてあげて」


慰めになるかどうか解らなかったけれど、そう言うのが夜与には背一杯だった。


「香、頼んだからね」

「おう…。でも、美崎!菊の打ち上げ花火も…奇麗だと思う」



「…帰る。じゃあね」



「ねぇ、みんな、そろそろ行かない?」

「え?」

「ほら、一応午後九時になるし、ね?」

「まぁ…そっか」

「うん、かえろっか」


菊菜の一声で、みんなの行動はすぐ決まる。

ここは、やはり香に出来ない菊菜のリーダーシップのすごさだ。




夜与に後ろ姿だけ気丈に、涙いっぱいで、みんなの一番先頭を陣取って、穴場から人影が誰もいない場所で夜与だけを残して、行ってしまった。



泣きながら、香を呼んでおいた公園に向かった。

公園に、菊菜が来ると、しっぽをふりふりしながら、

「菊菜ちゃん!」

「ちょっとベンチ座って」

「え?あ、はい」

そう言うと、少し大きめだった巾着の中から、お店でも開くのか、と突っ込みたくなる色々化粧道具が広げられた。

「菊菜ちゃん…?」

「いいから黙って」

おしろい、アイシャドー、ハイライト、チーク、マスカラ、グロス…、長年モデルとしてトップ争いをしている菊菜が、自然と覚えたヘアメイクを香に授けた。


「菊菜ちゃん、私、あの写真、燃やしたよ。菊菜ちゃんがシンデレラになれるって言ってくれたあの写真、あれなくても、もう大丈夫だから。私も、もう少し頑張ってみるね。あの言葉が、私の中で一番大切に出来た言葉だったから」




菊菜は鼻の頭を少し赤らめ、

「立って鏡見な」

「あ…はい!」



香は、幻かもと思った。

夢の様だった。

嘘さえ味方に思えた。



「あ、の…菊菜ちゃん…これは?」



「本当のシンデレラ誕生だね」

「え?」

「好きなんでしょ?夜与の事」

「そっそんな事ある訳ないじゃないですか!お二人お付き合いしてるって聞きました。お二人の邪魔になる行動はしないよう心掛けていたいたつもりなのですが…」



「バカ…。あんた、本当にむかつく…本当に可愛くて…むかつく…」



「菊菜ちゃ…」


「あたしは、正式に夜与に振られた。夜与には好きな子がいてその子と今日お祭りデート、あたしが用意したから…、伝えてきな。その人もあんたの事好きだから。

ここに行けば、会える」



ポンと背中を押して、

「穴場、行け!!」

一括してさっと後姿を…これ以上言えば、香に泣いてるとこがばれてしまう。


「ありがとう…菊菜ちゃん」

二人は最高の友達で、最高のライバルだったのだろう。

香は静かに菊菜に背を向けて歩き出した。





「あ、葉…月…?」

夜与は驚愕した。

香の可愛さに。




そして、香に近づいて、ぎゅっと抱き締めた。

二週間以上会えていなかった心が、香のぬくもりで満たされるように伝わってくる。



「ゴミ捨て…来いよな」

「…はい…」

「それと、俺、こんな可愛い彼女出来た!って、周りに言いふらして良い?」

「だっだめに決まってるじゃないですか!」

「ははっ、言うと思った」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眩しい打ち上げ花火 優しい線香花火 @m-amiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ