第2話 ミス、私は要らないから
菊菜の嫉妬は子供でも恐ろしいもので、本当に負ける気などサラサラなかった香に、本当は、菊菜に勝るほど程可愛い香に、悪魔的な嫉妬をしたのだ。
一方、みんなに見せるな、と絶好宣言をされた香は、
(みんなに見せなければ良いんだよね?)
と律儀に菊菜の言うように、その写真を誰に見せる訳でもなく、只、香みたいな地味で、目立たない子でも、こんなに可愛くなれるんだ…。
魔法みたい…。
と思い、香は宝物のようにその写真をお守り代わりに持ち歩くことにした。
その写真に贈られた、菊菜の言葉とともに。
時は流れ、二人は高校生になった。
菊菜は相変わらず、お姫様気質で、男子からちやほやされながら、高校一年の一学期を過ごしていた。
そして、二学期にには、学園祭を控えていた。
菊菜は、その学園祭でどうしても手にしておかなければならない称号があった。
ミスコンでミスS高に選ばれることだ。
モデルとして、雑誌にも頻繁に載っている自分が、例え一年生と言えど、ミスに選ばれないわけにはいかなかった。
お姫様気質の菊菜だったけれど、友達は大切にしたし、男子だけでなく、女子もまとめる力も持っていた。
一学期の終業式の後のホームルームが終わると、
「菊菜は絶対ミスになれるよ!」
「そうだよ。菊菜ちゃんは有名モデルなんだから、ミス確実だよ」
クラスの女子達に持ち上げられ、いい気分になる菊菜。
「うん!みんな応援よろしくね」
そうこう一通り愛想を振りまくと、菊菜は、玄関へ向かった。
そこで待っていたのは、香だった。
「香…」
「あ、菊菜ちゃん!」
相変わらずは菊菜だけではなかった。
香も分厚いメガネに色気のない、黒い髪を後ろで一つ結びで、地味一直線だった。
「香、一学期の終わりにそんなブス顔見せないでよ」
「あ、ごめん一言菊菜ちゃんに言いたくて」
「何よ?」
「学園祭、菊菜ちゃん絶対ミスになるから、私が言うまでもないけど、頑張ってね」
「あんたには関係…(なくもないんだよね…)」
菊菜は少しもごもごして、香に釘を刺すように、言った。
「香、あんたまさかミスコン出ようとか思ってないよね?」
「え?あ……考えた事も無かった。菊菜ちゃんがミスだって、絶対だって、思ってるから」
何の嫌味も感じさせない香に、菊菜は、また理不尽な怒りを覚えた。
「あんた、今日みたく待ってるとかしないでよね。不快だから」
「あ…ごめんなさい」
そう言うと菊菜は、ローファーの踵カツカツ鳴らし、さっさと帰ってしまった。
香は、そんな菊菜に、頭にきたことなど一度もなく、只、ひっそりと息を殺して、菊菜の邪魔にならないように、過ごしていた。
二学期に行われる、学園祭までは…。
「では!そろそろ学園祭のメインイベント、ミスとミスターを決める時がやってきました!皆さん!もう発表の準備はオッケーですかぁ!?」
三年生の司会の生徒が大袈裟に場を盛り上げる。
「早く言え――!!」
そこに、応える方もノリノリだ。
他の生徒達も学園祭を目前に、お酒でも飲んでいるかのように、ワイワイ騒いでいた。
「では、ミスターの方から!この称号を手にしたのは…!
「えー!一年かよ!二、三年冷てぇ!!」
三年の男子から悲鳴と似た残念がる声が上がった。
その声に反して、本人の夜与は、
「え?なんで俺エントリーされてんの?初耳なんだけど…」
寝耳に水の夜与に構わず、
「えー夜与君!壇上に上がってくださーい!」
無理矢理夜与の後ろから背中を押された。
そして、司会の生徒から促され、仕方なしに壇上に上がると、今度は女子から悲鳴が上がった。
「え――!格好いい――――!!!あたし知らなかった」
「ばーか!もう超有名だよ?あたし入学式から目ぇつけてたもん!」
「あたしなんてぇ、廊下で転んで、鞄の中身全部零しっちゃったんだけど、そしたら全部拾ってくれたの!中身もイケメンって感じだったぁ♡」
次々あげられる悲鳴とは全く物怖じしない、夜与。
面倒くさそうに次に呼ばれる女子の名前が挙げられるのをなんの興味もなく待っていた。
「はーい!!みんな静まれー!!次はとうとうミスの発表で――す!!!なんと!ミスターに続き、ミスも一年生だぁ―――!!」
菊菜は祈って祈って祈って祈っていた。
そして―――…、
「一年三組、
「菊菜ちゃーん!おめでとう!!」
男子の先輩からも好感触。
「おめでとう!菊菜!」
召使も大喜び。
「えー?あたしぃ?信じられなーい」
白々しい菊菜の言葉遣いに先輩女子は少々ブスッっとしたが、一年の女子と学校中の男子からは声援が飛んだ。
壇上に二人が並ぶと、本当に美男美女と言った感じで、本当に付き合っているんじゃないかと思ってしまうほどお似合いだった。
「うお――!!」
「ぅっしゃ――!!」
「ヤーンマジで?」
そして、何故こんなに盛り上がっているのか…。
それは、後夜祭で、全校生徒で生徒会長とじゃんけんをして、負けをふるいにかかけて、残った男女二十人がファイアーの周りでミスターとミス、それぞれと踊れる権利を得られるのだ。
「おっしー!俺菊菜ちゃんと踊れる!!」
「マジか―――!!めっちゃ期待してたのによぉ!!」
「いやーん!あたし夜与君と踊れる!!」
「え――?!本当!?いいなぁ」
そんな生徒の中で、今にも泣きそうな女子がいた。
「なんで…私?」
なんと、香がじゃんけんで勝ってしまい夜与と踊る羽目になってしまったのだ。
戸惑い、焦った香は…、
(そうだ!菊菜ちゃんに言って長谷川君に一緒に踊ってもらえるようにすれば…)
と密かに菊菜に近づこうとする香に、[ペタ]と胸に白い造花を貼られてしまった。
どの人にも不公平にならないように、生徒会が監視しているのだ。
なけなしの香の思い付きはあっけなく失敗に終わった。
ミスター、ミス。
ミスターは誰でもよかった。
菊菜がミスになって、心底の笑顔が見られたら、香はそれでよかった。
それがよかった…。
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