眩しい打ち上げ花火 優しい線香花火
涼
第1話 お姫様と召使。
「
「良いよ!あたしがお姫様ね!」
「うん!」
菊菜のお姫様役の立候補に、誰も文句を言う子はいなかった。
そして、
「
「うん!ありがとう!」
“召使”、普通に考えると、何だか嫌な役をわざわざ向けてこられてる気がする子は多分、一人や二人じゃない。
けれど、
そんな、二人の関係は、他の園児にも何となく理解されて、香は召使役なんだ、と認識していた。
そう言った認識の中、友達みんな、菊菜がお姫様で、香は召使、と言う形に、誰も気にする子はいなかった。
一方、葉月香はめだたない子供で、見た目も幼稚園からメガネをかけて、髪は後ろで一つ結び。
暗い訳ではなかったが、本当に静かな性格だった。
香は自分でもそれを解っていたし、別にそれを嫌がる事もなかった。
自分の立ち位置と言うものを、幼心にわきまえていたのだ。
しかし、小学生に上がり、七五三で、菊菜は驚愕することとなる。
七五三のお祝いに、記念写真を撮る為、メガネを外し、髪も奇麗に結ってもらい、お化粧もした。
その写真に写し出された香に、菊菜は息を呑んだ。
そう、その香は、誰より、…モデルまでこなしている、菊菜より、ずっとずっと可愛かったのだ。
香も、自分自身の変身ぶりに、正直、驚いた。
しかし、それは誰かに見て欲しいとか、目立ちたいとか、お姫様ごっこのお姫様になりたいとか、そんな大それたものではなく、只、そっと胸の奥に、そっと大事にしておきたい思い出に過ぎなかった。
しかし、菊菜は違った。
菊菜は、一週間に二度から四度くらい香の家へ遊びに来ていた。もちろん一人だったり、他の友達数人で遊びに来たり、何かと菊菜は香を何故かライバル心むき出しにつっかかる事も多くもあった。そういう時…そう言う気分の時は、必ず一人で香の家に来て、香の家の冷蔵庫を勝手に、見てプリンを食べたり、バナナを食べたり、ジュースを飲んだり、香以上に家の住人らしき素振りだ。
それもそのはず、これは、押し付けられた事ではない…と言えなくもないだろう。
香の両親は共働きで、お互い、中々定時で帰る事が出来ないほど、忙しかった。だから、
「菊名ちゃん、こんな事頼んで申し訳ないんだけど、出来るだけ香に会いに来てくれない?香、菊菜ちゃんが大好きだから」
「はい、解りました」
もう、モデルをこなしている菊菜にその返事は取りこぼしなく、ニコっと笑ってみせた。
「本当?菊菜ちゃん、香の家に来てくれるの?」
「うん。お仕事なければね」
「ありがとう!!」
そんな任務を任され、菊菜は香の家に現れるようになったのだ。
そうして、菊菜は例の写真を発見したのだ。
しかも、リビングに。
これでは、数人で遊びに来た他の友達に、この写真の香を見られてしまう。
こんなに、こんなに、可愛い香を。
そう、菊菜は子供ながらに、生まれて初めて香に嫉妬をしたのだ。
そこで、菊菜はこう言い放った。
「香ちゃん、この写真、みんなに見せたら絶好だからね」
突然の絶好宣言に、香は唯々、驚いた。
「約束だからね!約束破ったら、みんなに、もう香ちゃんと遊んじゃダメ!って言うからね!!」
「え?な、なんで?」
「いいから!」
菊菜は、闘争心とジェラシーがメラメラと心の中で混在していた。
菊菜は、自分が一番じゃないと気が済まなかった。
母親のつたないメイクと、それぞれ多少違ってくるが、レンタルの衣装。
小さな写真スタジオでたった一個の照明。
「それで、お姫様気分?笑える」
でも私は、ライト幾つも焚かれキラキラ光って、いろんな角度で写った、その中で
自分の一番いい写真を選んでもらって、それが、雑誌に載る。
なのに―…
香は母親のそれなりのメイクと、必ず誰かと被る衣装。
ライトはたった一個。
棒立ちのポーズ。
何にしても環境は菊菜が数倍上の出来なのに、香はそれを超えて来た。
存在価値を初めて否定されたように、菊菜は悔しかった。
それが、菊菜を超えた香の最初で最後の写真だった。
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