第9話 終章:皇帝と悪魔の対話

 陛下、その土地の特色を知ることは、税収の拡大にも繋がりますぞ。

 主食の生産力は低くても、価値の高い果物や香辛料の生育に良い土地かもしれません。

 畜産を中心に行っている土地は、毛・肉・乳製品のどこに着目して生産力を決定するのか。

 海に面した地域では、漁業の生産力をどう評価するのか。

 土地の生産物をきめ細かく知れば知るほど、課税範囲は広がる可能性がある。

 あと、これは地租とは関係がありませんが、岩塩の採掘場所と、塩田は、発見次第軍を派遣して管理下に置かれることですよ。

 各地の酒の流通経路にも注意しておいた方が良いですな。

 このあたりは、がっちり専売制による税収が見込まれる部分なので見逃してはいけません。

 徴税請負人に同行し、その土地の特色や土地の有力者を知り、特産品や徴税コストがいかほどのものかを学ばせるのです。


 加えて、まあ、こちらは余力があればやっておくことではあるのですが……

 生かさず殺さずが原則とはいえ、徴税請負人の中には民を痛めつけたり、理不尽なことを強いる者もおりますからな。

 そこで陛下の臣が非道を正せば、陛下の声望はうなぎ登りというやつですよ。

「横暴な旧特権者層を監視する新支配者」という構図を、民にわかりやすく示してみせるのです。

 この認識が浸透すれば、これからの支配はスムーズに進みましょうよ。

 陛下の行うあらたな施策にも、積極的な協力が得られるでしょう。

 もちろん、徴税請負人たちは目障りな陛下の臣には黙っていてもらうべく、接待漬けにして自分の仕事の視察をさせない者もおおいでしょうから、そういう誘惑に負けない性格の者たちを選抜し、なおかつ、相互監視できるように複数の者をおつけになることが肝要にはなりましょう。任期制にしても良いですな。

 ここで徴税請負人たちと結託して私財を肥やしたり非道を働く者が多くては、陛下のせっかくの偉業に水を差しますからな。

 そういう芽を摘み取る何らかの監視システムが必要になりましょうな。


 なにはともあれ、陛下の国のためのあらたな地租台帳の作成……この主目的のためには、当然、記録し、計算し、できれば交渉することに長けた者が必要でしょうな。

 間違っても戦自慢の脳筋の寄せ集めで徴税請負人たちを監督させてはいけませんぞ。

 徴税請負人たちの狡猾さを、甘く見てはなりません。

 しかし狡猾であると言うことは、裏を返せば有能な者であるとも言えるのです。

 陛下の官僚団が最終的には徴税の長となられるにせよ、信用のおける徴税請負人なら、その部下もろとも、官僚団に吸収してしまうのも手ではあります。

 どうせ、陛下の騎馬の民だけではすべての支配は行えぬのです。

 有能な者を効率よく雇用するための徴税請負人制度でもあるとお考えください。


 数年……あるいは十数年掛けて地方の事情を把握したなら、一気に……とはいえ、これも数年かかる場合もありましょうな……測量をし、生産力の評価を行い、納税義務者を定めます。

 このあたりは軍をお使いになってもよいでしょう。工兵部隊がいらっしゃるならその者たちを中心に。

 兵というのは、ひとつの作業を一気呵成にやってしまう訓練を積んでおりますからな。

 あと、場合によっては簡易な架橋や道路の補修など手伝ってやれば喜ばれますよ。

 陛下の威信を全土にあまねく知らしめる良い機会です。


 徴税請負人制度の納税義務者は、当然、徴税請負人ですが、地租台帳に基づく課税の場合は納税義務者を決める必要があります。

 納税義務者が貨幣で納税できるなら、土地所有者個々に納税させてもよいのですが、生産物で納税させるなら村落単位で納税義務者を決めると良いでしょう。

 千の村落があり、村落ひとつに百の地主がいれば、ひとりひとりを納税義務者にすれば、陛下は十万の納税を管理せねばなりませんが、村落単位にすれば千の管理で済むのです。

 また、金銭で徴税できる場合なら、年一回、陛下の徴税官を村落に派遣しても良いでしょうが、貨幣制度が農村であればあるほど浸透していない場合もあろうかと存じます。

 基本的には全土を何区画かに分け、中心都市を定めてそこに生産品を集積させる必要があります。

 交易や、万が一の時には速やかに首都に運ぶ必要を考えれば、港湾都市、ないし大河に近接した都市を選定されるとよろしいでしょう。これらの港の整備を行えば、商業の発展にも繋がります。

 富国強兵、夢が膨らみますな!


 このあたりで、地租の話は終わりです。

 あとは、数年に一度……毎年はさすがに不経済ですからな……地租台帳を更新すればよろしい、ということになりましょう。


 ……はあ、ゆくゆくは労働者を集めて壮大な宮殿を建設したいと。

 貿易を行う商人にも課税したい? 通行税を導入したい? 人間ひとりひとりに税を課して、兵役を浸透させたい? 都市に居住することに対して課税したい?

 鍛冶屋や穀物商、宿屋、馬具商い……卸売り、小売り、サービス業に税を課す方法はないかと?


 陛下はなかなか欲ぶ……いやいや、気宇壮大でございますな。

 しかし、ものは順番というものです。着実に基礎から固めていきましょう。

 本日はこのあたりでおしまいにしておきましょうかな。

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ファンタジー世界で税金を徴収する方法・地租編 宮田秩早 @takoyakiitigo

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