第5話 皇帝と悪魔の対話 その2

 陛下、前の王とその一族を斬首し、ようやく一安心……征服を終えて早々でございますがすぐにでも地租の徴税の準備に取りかからねばなりません。

 とはいえ、今年の石高は良くないでしょうな。なにしろ、前王と陛下が散々、農地を荒らされましたからな。残念ながらいま、この国の農地は荒廃しております。

 「前王が早々に降伏していれば良かったのだ」って?

 ごもっともでございますが、結果は結果です。生産力が落ちているのは事実でございます。

 原因がどうであれ、事実を認めてそこから策を練るのが皇帝の器というものでございますよ。


 陛下の民族……騎馬民族の国は、少数精鋭を旨としておりましたな。

 となれば子飼いの徴税官……どころか、人口自体が少ないわけですな。

 徴税には多大な人員が必要でございます。

 前の国王が管理していた地租台帳は発見できましたかな?

 ふむ、おそらくは焼かれてしまっていると。

 まあ、滅亡を目前に、処刑されるのを覚悟した前王の最後のイジワルというやつですな。そう簡単に陛下に国を治めさせてたまるかという。

 仕方がありません。まずは耕作地の面積を測量するところからですが、今年の税はどうするか、ですな。

 春から戦争で、いまは夏。初夏に冬小麦の収穫が行われているはずですが、これは散々でしょうな。

 もうすぐ雑穀の収穫時期ではありますが、播種時期にはまだ戦争をしておりましたから、こちらもどうなることやら。

 ですから、可能ならば今年は税免除も考慮なさいませ。

 どうせ、戦場になった地域を中心にろくに収穫できませんし、前の国の徴税制度……官僚組織と地租台帳が残っているならともかく、このたびは地租台帳は焼けておりますし、前の国の官僚は陛下に殺されたり逃げたりで、半分も残っておりません。

 要はまだ支配の制度が整っていないということです。

 強いて課税しても兵を出して強制的に取り上げることのできる地域以外、上手くいきませんよ。

 それだと兵の派遣費用も馬鹿になりません。

 それに、税の免除は皇帝陛下の人気取りにもってこいです。

 むろん、来年の徴税のための策を練ることも忘れてはいけませんが、人気取り……これも大切なことです。

 今年は手っ取り早く、塩や酒の生産地を押さえ、前の王や貴族、都市民から掠奪した貴金属や美術品の収入で凌ぐというのはいかがですかな。

 もちろん、それでは国庫が苦しいと言うことはままありますな。

 その場合は仕方がありません。

 効率を考えて今年、戦場にならなかった地方に軍を派遣し、村落の有力者らしき人物と交渉するなり脅すなりして徴税しましょう。掠奪とも言いますな。

 税率もなにもあったものではありませんが、支配第一年目など、まあ、どこもこんなものですよ。


 で、そう、ここからが本題です。


 一年で制度を完成させることは難しくとも、たとえ陛下の意思を忠実に遂行してくれる子飼いの部下がすくなくとも、効率よく地租を取るすべはあります。

 無論、農耕民族の支配は、ゆくゆくは官僚制の拡充が欠かせません。

 数年掛けて着実に陛下の部下となり得る人物を増やしてゆき、恒久的な制度を確立するのです。

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