第8話 楽しく学んで楽々徴収!【裏技の問題点】

入札式であろうと委任式であろうと、徴税請負人制度は徴税権の私人への委託です。


 まず第一の問題は、徴税請負人が「過剰な」税を徴収することを止められないことでしょう。

 徴税請負人の義務は国家に対しては約束した一定の税をおさめることだけです。国家が徴税する場合のさまざまなコストを徴税請負人が肩代わりするのですから、約束した税額よりおおめに徴収することは、認められていました。また、あまり苛酷な取り立てを行うと、民が逃亡し、国土が疲弊するリスクがあります。そんなことは徴税請負人も望んでいないはずですが、入札によって常に隣人との競争圧力に晒されている場合、徴税権を手に入れているあいだにすこしでも自分の家を富ますために無理な徴税を行う可能性は在ります。

 また、逆に徴税請負人候補が結託し納税額を低く抑えることもあり得ます。

 徴税請負人たちの徴収する税が苛酷なものか、国家への納税額が不当に低額なものか、不作への対応など、徴税請負人制度に依存し、その地域の内情をしらない国家には判断しようがありません。


 第二の問題は、本来の支配者の官僚団が、その土地の事情について、いつまでも明るくならないことでしょう。加えて、古代~近世においては徴税権と軍事力の展開とは密接に結びついています。徴税請負人たちは国家の軍隊が自分たちの根城にする地域に入り込むことを極力、排除しようとしますし、国家にとって軍隊を展開させることは負担ですから、財政的にそのような地域から軍を撤退させる圧力が生まれてきます。国家と徴税請負人たちの利害が一致するわけですが、ここには落とし穴が存在するのは言うまでもないでしょう。

 歴史上、例外は存在しますが、官僚が詳細を熟知していない、軍隊も展開していない地域……叛乱の温床です。

 自分の支配する国土と民に通じること……支配者は、つねにここに立ち返る必要があります。

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