第2話 前置き:皇帝と悪魔の対話

 陛下、この国の征服、おめでとうございます。

 なかなか長くかかりましたな……十年ですか。前王もよく粘りました。

 さぞかし戦費がかかったことでございましょう。ご苦労様です。

 私は何者かって?

 【課税の悪魔】とでも申しましょうか。

 民から税金を徴収し、国庫を肥やすことに至福を覚える者です。

 陛下のお役に立つ者でございますよ。


 さて、陛下は騎馬民族の王でございましたな。

 いまではこの農耕民族の国を征服した皇帝陛下でございますが。

 これまでは必要になったときに攻め込んで掠奪すれば良かったわけですが、今後はそうは参りません。なんと言っても「自国の民」ですからな。うわべだけでも公平を期さねば。

 あと、支配者としてあまり暴力を見せつけると、民心が離れます。

 うまく立ち回って、「陛下は民の味方」であるところを見せねば、せっかくの支配も長くはないでしょう。

 ほうほう、「農耕民族の民などたかがしれている。恐れるにたらん」でございますか?

 そうかもしれませんが、窮鼠猫を噛むと申します。

 困窮した民の団結力は侮れません。

 以前の王とその血族、おもだった大貴族の首は切りましたが、まだまだ旧主の薄い血族は残っておりましょうし、民心も完全に陛下に懐いたとは言い切れませんからな。

 煽動する者に容易く煽られてしまうのが、いまのこの国の状況でございましょうよ。

 また、団結できなくとも流民となってしまえば、せっかくの生産力が水の泡でございます。

 大地の生産力とは、耕す者があってこそなのです。

 上手く立ち回るのです。陛下。


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