寄り道

武藤勇城

第1話

  Ⅰ


 熊谷から鶴ヶ島まで帰るルートはいくつもあるが、俺はいつも407(よんまるなな)を使う。

 ひたすらまっすぐに帰れるのが楽で、これがこの道を選ぶ最大の理由だが、実際問題として、道の混雑度、距離などから考えても、多分これがベストなルートなのではないかと思う。


 昔の仕事仲間と会って、今日はもう夜も更けた。

 今日、いやもう昨日になるが、いわゆる新年会というヤツで、仕事場の同僚と飲んだ。

 それほど大量のアルコールが入ったわけではないが、酔いを醒ますため、二次会のカラオケに行き、大いに歌い、そこのドリンクバーでソフトドリンクをがぶ飲みした。

 乳酸菌飲料を炭酸系のジュースで割って飲むのがマイフェイバリットである。


 これですっかり酔いは醒めたが、その分帰る時間は遅くなった。

 飲み屋を出た時間、そしてカラオケにいた時間、それから考えると、もう今は深夜1時半か2時か・・・車の時計が壊れているので、詳しい時間は分からなかった。


 普段通り、407へ向かうルートへ車を走らせようとしていたのだが、俺はその時、ちょっとした冒険心を覚えた。

 今走っている国道140号、これを左折して407へ向かうのではなく、このまままっすぐ車を走らせてみようか。

 ふと、そんな気になった。


 このときの俺自身の心理状態を表すのはひどく困難だ。

 何しろ、この行動が方程式を解いて導き出した答えなどというものではなく、どちらかと言えば自分の感性、感覚的なものがそうさせたからだ。

 ただ、100パーセント感覚的なものだけでそう決めたのかというとそれもまた違って、この答えを誘くべきいくつかの要素というものも間違いなく存在した。


 そのひとつは、新年という事もあって飲み会の翌日、つまり今日の会社が休みであった事。

 仮にちょっとぐらい迷ったとしても、今日中に家に帰れれば、何の問題も無かった。

 家で待っている人がいるわけでもないし、腹を空かせて待っているペットなどもいない。

 天涯孤独の1人暮らしというのは、時としてこういった冒険心を抱かせるものらしい。


 それにもうひとつ、理由を挙げるとすれば。

 今走っているこの道が、時間帯もあるが、あまりにも空いていたので、良いドライブが出来そうな予感があったからかも知れない。

 いずれにしても、それらがこの道を選んだ決定的な理由ではなく、やはり「何となく」真っ直ぐに140号を走る事になったのだ、俺はこの時の行動を振り返ってみてそう思う。

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