第14話

  ⅩⅣ


 「254はね、こっちから降りて行くのが早いの。来た道も、そっちの大きな道も、別のところに出ちゃうから。まぁついて来てよ。」

 ゆかりは車のエンジンをかけ、そう言った。

 「悪いね、迷い込んだだけでも迷惑なのに、道まで・・・」

 「もういいから。行くわよ。」

 ゆかりに急かされ、この夜中にまた立ち話をするのも迷惑な事だろうと思って、俺は速やかに車に乗り込むと、エンジンをかけた。


 そうしてゆかりの道案内に任せ、山道を抜け、5分ほども走っただろうか。

 林道の先に、大きな通りの明かりが見えてきた。

 道案内だけならばここまでで十分だったが、ゆかりは通りに出るまで先導してくれるつもりのようだ。

 やがて254を目前にして、ゆかりの車が停まった。

 俺も続いて、その車の後ろに停車する。


 「ありがとう。こんな遅くに、わざわざ。何と言ってお礼したらいいか分からないよ。」

 車の中でさんざ考えたこのセリフを、俺は告げた。

 そしてもうひとつ、逡巡しながらも、つい口に出してしまった。

 「お礼といっては何だけど、その辺で夜飯をご馳走させてくれないかな?」


 言ってから、やはり言うべきではなかったか、と後悔した。

 時間も時間だ。

 こんな誘いの言葉は、はっきり言って迷惑でしかないだろう。

 それに。

 ゆかりがゆかりの祖母に呼ばれたとき、確か「ご飯よ。」と呼ばれていたような気がする。

 夜食は間違いなく、家に用意されているのだろう。

 俺は、ゆかりが絶対に断るものとばかり思った。


 だから、

 「ええ。遠慮なく、ご馳走になるわ。」

 ゆかりがあっさり承諾したときは、正直驚いた。

 「あれ?でも家にご飯が用意されているんじゃ・・・それに、こんな時間だし。」

 「うん、お婆ちゃんには外で食べてくるって言っちゃった。それに、今はお正月よ。バイトもお店も、学校も休みだわ。」

 「あぁ、そうか・・・」

 俺はそれだけ言うのが精一杯だった。


 ゆかりは意外とちゃっかりしている、と思った。

 だが、自分の方がよほど迷惑な話だろうと考えて、苦笑するしかなかった。


 それから、ゆかりの案内で、近くにあるというファミリーレストランへ向かった。

 254沿いにあるそれは、ごく普通のファミレスだった。

 どんな高価なものでも奢るつもりだったが、考えてみればこんな時間に高級料理屋などやっているはずもない。

 だから、店に着いたとき、

 「ごめん、こんな時間じゃファミレスぐらいしかないよね。」

 俺はまたゆかりに謝ってしまった。

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