第15話
ⅩⅤ
ハンバーグのセットに、ドリンクバー。
飲み屋を出てから、それなりの時間が経っていたので、俺は空腹だった。
ライスの大盛りがあれば頼みたいぐらいだったが、何となくそれは遠慮した。
新年会の後のカラオケ店でたらふく飲んでいたのだが、いつものクセで、ここでもドリンクバーを注文してしまった。
ゆかりも「同じものを・・・」とオーダーした。
「ダイエットとか気にしないんだ?」
俺はまた失礼な事を訊いた。
自分で奢ると言っておきながら、がっつり頼んだら今度はダイエットしてないのかって、それは無茶苦茶な話だ。
別に遠慮して食べるななどと言いたいわけではなく。
他意はなかった。
ただ、年頃の女性が初対面の異性とハンバーグを食べるというのは、俺にとっては少し理解できないところでもあったのだ。
だから、ついそんな事を訊いてしまった。
「私って太らない体質なのよね。」
ゆかりは俺の質問など全く意に介していない風で、あっけらかんと答えた。
「お母さんも、お婆ちゃんも痩せ型だから、血筋かしら。」
両手にグラスを持ち、俺は一人でドリンクバーに向かうと、ゆかりに頼まれたオレンジジュースと自分の分を作ってテーブルに戻った。
「その飲み物は何?メロンソーダ?」
俺の白緑色のオリジナルドリンクを見て、ゆかりは不思議そうに訊ねた。
「アンバサのメロンソーダ割り・・・メロンソーダのアンバサ割りかな?アンバサとメロンソーダを半々で割ったものだよ。少し味見してみる?」
付き合いやすいな。
変わった娘だけど、何でも話せて気持ちが良い。
そう思った。
そう思った勢いで、俺はゆかりのメアドを訊いてみた。
ゆかりは迷う事もなく携帯を取り出すと、アドレスを教えてくれた。
「番号はこれ。」
そう言って番号も教えてくれた。
家に侵入してきた男と、いきなり番号交換なんてするもんかね?
俺はゆかりの行動に多少の違和感を覚えながらも、それが彼女なのだと妙に納得した。
純粋なのだ。
他人を疑う事を知らない。
訊けば、何でも教えてくれるのではないだろうか。
例えば、カードの暗証番号とか。金庫のありかとか。
ゆかりの事だ、どこかに埋蔵金でもあるかも知れないぞ。
それだって、訊けば答えてくれるに違いない。
そんな事を考えながら、しかし俺はゆかりの純粋な気持ちを裏切る事など出来る筈がないと思った。
悪い事をしようとすれば、ゆかりを騙す事など他愛もない話だろう。
だが、ゆかりの純粋さに俺も感化され、いや俺だけじゃない、他の人間であってもきっと感化され、邪な考えなど全て消え去ってしまうのではないか、そう考えた。
「今度さ、おばあちゃんにもお礼が言いたいな。お菓子でも持って、お店の方にも寄らせてもらうよ。」
もう一度会うための口実だ。
だがゆかりは、やはり何を疑う事もなく、
「お婆ちゃんも喜ぶわ。お婆ちゃんは羊羹が好きなの。栗の入ったやつ。」
嬉しそうに、そう答えるのだった。
俺は次第に、ゆかりの、その純粋さに惹かれていった。
この場所でも、俺たちは長い間話し込んだ。
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