第12話

  Ⅻ


 いつの間にか、廊下には明かりが灯っていた。

 いつから明かりが点いていたのか、俺にはわからない。

 彼女の姿を最初に見たときは気が動転していたし、それから俺はただ焦るばかりで、その後は話に熱中していて、周りの事などは一切眼に入らなかった。


 彼女が廊下に立っていた時、それがすぐに彼女であると分かったし、彼女と話す間にも表情がよく見えた。

 だから、きっと彼女が縁側に来た時点で、俺の存在を発見して明かりを点けたのだろう。

 「ご飯が出来たわよー。」

 彼女・・・ゆかりが、今しがた祖母にそう呼ばれ、この場を去ったとき、この場所に明かりが点いているという、その事実に気付いたのだった。


 奥の方、最初に明かりが灯っていた場所、そこにゆかりの祖母が居るようだ。

 そちらの方から、ゆかりと祖母の話し声が少しだけ聞こえてくる。

 「・・・うん、そう・・・また迷って・・・ゴエモンが・・・」

 途切れ途切れ、聞こえてくる話し声から、ゆかりは俺の事を説明してくれているようだった。


 1、2分の後、ゆかりが戻ってきて、俺に尋ねた。

 「道に迷ったのよね、どうやって帰るおつもり?」

 「取り敢えず254か407に出られれば。それで帰ろうと思っています。どうやってこの道に出ればいいかだけ教えてもらえれば・・・」

 「なんだ、254ならすぐ裏よ。車で5分もかからないわ。あぁ、でもちょっと分かり難いか。ちょっと待ってて・・・」

 そう言い残し、またゆかりは奥の方へ消えていった。


 「うん、そう・・・だから・・・送って・・・ん・・・外で・・・要らないかも・・・」

 また数分の後、ゆかりは戻ってくると、

 「じゃぁ、私が道案内してあげる。ついてきて。」

 そう言って、さっさと歩き出した。

 「いや、あの、悪いよ。道だけ教えてくれれば、多分大丈夫だから。」

 「じゃぁ、帰れるの?出口も分からないのに・・・」

 少し挑戦的に、ゆかりは言った。

 「出口?出口も教えて貰えれば・・・」

 「ついてきたら早いから。ほら、早く。」

 もう一度ゆかりはそう言って、先に歩き出した。

 俺はその後ろを、すごすごとついて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る