第4話
Ⅳ
2台前にいた車は、今通過した信号の変わりばなで見失った。
前の前の車がこの信号を通過したとき、既に信号機は黄色になっていた。
俺の前にいる車も通過できそうなタイミングであったし、実際このぐらいの時間があれば悠々と通過してしまう運転手もいる。
だが、前の車の運転手は安全運転を心がけているらしく、信号が黄色になった刹那、ブレーキを踏んでスピードを落とし、信号の手前で停車した。
もしこの運転手が先を急いでいたり、多少乱暴な運転をする人物であったら。
危うく、この車ともはぐれてしまうところだった。
そうなっていたら、また先ほどの不安が頭をよぎり、俺はここで道を引き返していたかもしれない。
しかし幸いな事に、今、俺の車は前の車のすぐ後ろに付けている。
練馬のおはよーさん、か。
ナンバープレートに書かれた「練馬 の 08-43」という文字を見ながら、ひとり呟いた。
よし、こうなったら、この車にどこまでもついていってやる。
このとき、俺はそんな事を考えた。
信号が赤の間、前の車は、室内灯を点けて何やらやっているようだった。
地図でも見ているのだろうか。
もしそうだとしたら、この車も既に道を失っているという事になる。
信号が赤のうちに、もしかしたら前の車から降りてきて、
「この道はどこへ続いているのでしょうか?」
などと尋ねられるのではないか、そんな不安も頭をよぎった。
そんな事を聞かれても、俺には答える術は無い。
まさか「あなたの車の後をつけてここまで来ました」とも言えまい。
だが、この心配も杞憂に終わった。
前の車は、信号が変わるとすぐに室内灯を消し、迷いの無い足取りで道を進んでいく。
俺は少し勇気付けられるような、しかし少し情けないような、そんな気持ちでハンドルを握っていた。
というのも、先ほど室内灯に映し出された人影は、どうやら髪の長い女性だったようなのだ。
女性の後をくっついて行くというのは、俺の男としての矜持から、情けない気持ちが沸き起こるのも無理は無い。
そもそも道を失ってあたふたしている時点で、まぁ情けない話ではあるのだが、加えて女性の運転する車の後をついているのだと思うと、何ともやりきれない気になる。
この車もただ真っ直ぐ進んでいるだけなのであるから、考えようによっては特別後をつけているという事にはならないだろう。
そんな事を考え、俺は少しだけ自分のプライドを取り戻すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます