第5話

  Ⅴ


 道は次第に細くなり、左右の民家の数も減ってきた。

 道は、どんどん山の方へ向かっているような気がした。

 小川町、寄居。

 そっちの方向へ進んでいるのであれば、山道であっても不思議ではない。

 だが、見知らぬ道で、それが夜の山道ともなると、かなりいやな感じである。

 できれば、もっと明るいルートへ出たい。


 距離感からいうと、もうそろそろ407か254に出ても良いはずなのが。

 最悪140号に戻る可能性もあるが、それならそれで構わない。

 当初の予定通りに車を走らせれば良いだけだから。

 とにかく、知っている道へ出たい!

 だが、道は細くなるばかりで、大きな通りにぶつかる事もなく、それらしき道路標識なども見当たらない。


 どこかで左に入ろう。

 大きな道か、信号のあるところで。

 俺はそう決心した。

 決心したはいいが、しかし道には信号も無く、ただ細い道が蛇行しながら延々と続いている。

 一体どこへ向かっているのだろうか。

 今や完全に道を失った俺は、すっかり気弱になっていた。


 それは、まさに渡りに船だった。

 前を走っている車が左にウィンカーを出したのだ。

 どこを曲がろうとしているのか、遠目には分からない。

 少なくとも信号は無く、街灯のある大きな通りでもないようだ。

 だが、前の車が左折するという事は、きっと407か254へ抜ける道があるのに違いない。

 走ってきた距離感から考えて、俺はこの自分の考えに自信があった。

 だから前の車に続いて左折する事自体には、迷いは無かった。


 ただ。

 あまりに早いタイミングでウィンカーをつけるのは、俺が前の車の後をつけているように見えて、なんだか気恥ずかしかった。

 だから俺は、かなり遠い位置からスピードを落とし、更に前の車が完全に曲がり切ったのを確認した後、たっぷり時間をとってからウィンカーを出し、前の車がやや遠くに離れるのを待って左折した。


 前の車は、既にテールランプが遠くに見える。

 もう100メートルほども距離が開いただろうか。

 そのまま、少しずつ離れるようにして、俺はゆっくり道を走った。

 407か254に出られるのであれば、もはや前の車の道案内は必要ない。

 そう思ったから、俺は前の車との距離が更に開くように、ゆっくり、ゆっくりと走った。

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