第6話

  Ⅵ


 おかしい。

 この細い道は、ただ細いだけで延々と続き、どこにも行こうとはしていない。

 407も、254も、一向に姿を現さないのだ。

 それどころか、道幅はますます狭まり、今や車が一台通るのがやっとという有様になっていた。

 もはや、この道でUターンする事さえ出来ない。

 俺はここまで来て、失敗を悟った。


 前の車はこの道のどこかで、恐らく自宅にでも入ったのだろう。

 それ以外、この狭い道に目的地があるとは思えない。

 この道は大通りに出る抜け道などではなかった。

 ただ自宅へ向かうための、それだけの道だったのだ。

 戻るしかない。

 元の道へ。

 そこから左折して先へ進むか、右折して気が遠くなるほどの道を逆戻りするか。

 いずれにしても、この道を引き返すしかないだろう。


 だが。

 道の左右には民家も絶え、うっそうと茂る森があるだけで、Uターンできそうな場所は無い。

 山間の道なのか、暗くてアップダウンも激しく、とてもじゃないがバックで戻る事も出来そうに無い。

 これは困った。

 俺には先へ進む事しか出来なかった。

 どこかでUターンするとしても、だ。


 ここまで進んできた距離を考えると、頭が痛くなる。

 前の車についてこなければ・・・と後悔したが、それも詮無き事。

 とにかくUターンするだけだ。

 どこかでUターンできる場所を探して。

 その場所を探すのが遅くなればなるだけ、引き返すという無駄な時間が長くなる。

 少しでも道幅が広がれば・・・

 どこかにUターン出来そうな場所があれば・・・

 俺は暗い中、ヘッドライトの明かりだけを頼りに、Uターン出来そうな場所を探し続けた。


 どれほどの時間が経ったろうか。

 俺はようやく、その場所に辿り着いた。

 突然道が開けて、大きな岩場だろうか、山の中の工事現場らしき広場に出た。

 俺の乗るような小型車ではない、トラックでもトレーラーでもショベルカーでも、どんな大型の車でも悠々と動けるような、そこはそんな場所だった。


 俺はこの場所に着いたことで、安心して一気に肩の力が抜けた。

 取り敢えず一服するか。

 ここまで少し気が張っていたし、長時間の運転で疲労もある。

 それにこの場所には、ほんの僅かながら街灯もあって、ぼんやりと明るい。

 俺は車を降りると、

 ん~っ!

 とひとつ伸びをして、車のダッシュボードから煙草を取り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る