第9話

  Ⅸ


 明かりはまだ廊下の先にある。

 俺が落ちた場所から明かりまでの、ここは中間ぐらいの位置だろうか。

 廊下の右手に、中庭に通じる縁側があったのだ。

 俺は明かりの元に居る何かに会うのを躊躇っていたが故に、“明かりのある場所”以外に行く場所を見つけたとき、それを選んでいた。


 今、俺は縁側に居る。

 今日は月明かりだったんだ。

 満月に近い。

 夜、暗い中で道を走る時、そんな事にも気付かないほど俺の目は弱くなる。

 こうしてゆっくりしてみた時、初めてその事実が分かった。


 白い玉砂利だろうか、綺麗に敷き詰められた中庭のようだ。

 月明かりに照らされる「白いもの」だけが、俺の目に見える唯一のものだ。

 黒や濃い色のものは光を吸収してしまうため、夜目の効かない俺には暗闇の中で判別できない。

 白か、限りなく白に近い色、それだけが弱い月の光を反射して俺の目に入ってくる。

 それも、最初から見えている訳ではない。

 じっくりと目を凝らしてみて、初めて分かるのだ。

 暗い場所に目が慣れてきて、その上で目を凝らして、何とか白いものだけが判別できる。

 その俺の目に見えるのは、中庭の玉砂利、それと中庭を仕切っているらしい、奥の白壁だ。


 いや、もうひとつあった。

 最初は何か良く分からなかったが、あれは池だ。

 池の水に、月が映っているのだ。

 何か白いものが動いているように見えた、それは風に揺らめく水面に映る、今宵の満月だった。

 白壁に覆われ、池がある、玉砂利が敷き詰められている中庭に面した、縁側。

 そこが俺の今居る場所だった。


 「みゃぁ。」

 ん?

 猫の声だ。

 微かに砂利の上を歩く音がする。

 「みゃー。」

 今度は足元だ、すぐ近くに居る。

 俺は縁側に腰を下ろして、恐る恐る玉砂利の上に降り立った。

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