第8話

  Ⅷ


 何が起きたのか、俺は全く分からなかった。

 内臓が押し上げられるような、浮揚感。

 一瞬の後、俺は背中に強い衝撃を覚えた。


 落下したのだ。

 どこから?

 丘の頂上からか?丘の裏手は崖にでもなっていたのだろうか?

 手は?足は?

 大丈夫だ、動く。


 腰を強かに打ちつけたが、しかしその痛みもそれほど酷いものではないらしい。

 起き上がるのに支障は無かった。

 それほどの高さから落下したのではないのだろう。

 それより。

 起き上がるために地面に手を付いた、その感触はどうだ。

 この感触は、砂場でも、岩場でも、森の中でもない。

 そう、木の板を張り詰めた、まるで和式の廊下のようではないか。


 辺りは相変わらず真っ暗だ。

 しかし目を凝らして辺りを見回すと、だいぶ奥の方に、ぼんやり明かりが灯っているのが分かった。

 俺は暗い足元を、慎重につま先で探りながら、ゆっくりと明かりのある方へ進んでいった。


 やはり、ここは廊下だ。

 間違いない。

 どうやってこの場所に来たのかは分からない。

 だが、今居る場所が先ほどまでの場所とは全く違う、どこかの家の中であるという、それだけは確かだった。


 工事現場の砂の丘にいた筈なのに、今はこうして家の中にいる。

 まるで夢を見ているようだ。

 しかし、背中の痛みが、これが現実である事を教えてくれる。

 明かりの元へ行き、恐らくそこに居るであろう人物 (?)に話を聞くしかない。

 そこにいるのは、車を運転していた女性だろう。

 確信めいたそんな考えが、俺の中にハッキリと存在していた。


 もしかしたら、それは幽霊かも知れない。

 髪の長い女性の幽霊の話は、世間にいくらでも存在する。

 いや、もしかしたら狐か狸かに騙されているのだろうか?

 薄気味悪かった。

 それでも行くしかなかった。


 それに。

 もし相手が幽霊でも物の怪でもなく、ただの人間だったとしてもだ。

 会って、何をどうやって説明すれば良いのだろう?

 やはり後をついてここまで来た事を、素直に話すしかないだろうか。

 それは俺にとって非常に嫌な事ではあったが、それ以外に方法が無かった。

 とにかく、そこにいる何かに会って、話をする。

 それ以外、今の俺には選択の余地が無かった。

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