祖母。介護。マフラー、赤いきつねの使い方、上手く、心にきます。印象に残るシーンと情景。切ないけど温かみのある物語でした。
読みやすい語り口であっという間に読めました。高齢化社会が進行する日本において、ただの作られた物語としては読めない、重みを感じました。
あえて記載すると、わたしはこの物語や描写が好きではないです。しかし、物語の流れや描写する力は圧倒的です。こんな作品にカクヨムで出会えるとは思えませんでした。(わたしがあまり好きではないので)好みはわかれるのかなと思いますが、だからこそハッキリと言えます。心に残る作品です。
家族を、親族を、疎ましく思うことはある。理由も原因も、様々だ。例えば、介護。例えば、認知症。それでも、断ち切れないつながりがある。かなぐり捨てることのできない、目に見えないつながりがある。それは血なのか、過去の暖かい追憶なのか。いずれにしても、そのつながりは、容易には断ち切れない。家族だから、親族だからで片付けてしまうには足りなくて、でも言葉にも態度にも真っ直ぐに表せない想いが、この中に詰まっている。
認知症を患う祖母との生活は、大学生の鉄平にとっては冬場の赤切れのように少し痛い生活です。認知症の方は何も悪くありません。進んで認知症になっている訳がないからです。だけどそれをケアする側の人間に、負担をかけていることは間違いない。そんななか鉄平は、お気に入りの「赤いきつね」を祖母に食べられる訳ですが……。誰にとってもそんな「いつか」が来るかも知れない。だからこそ、その時を後悔しないように優しく生きていきたい。このお話は、そんな素晴らしいメッセージに溢れている作品です。是非、ご一読ください。
大学生の主人公は、祖母から貰ったマフラーを大事にしていた。 しかし、主人公の曾祖母は朗らかな性格だったのに対して、祖母は落ち込みやすい性格で、曾祖母が亡くなってからは、曾祖母との優しい思い出ばかり。 そんな主人公は、祖母と同居することになるが、どうにもそりが合わず……。 赤いきつねを軸にして、家族関係の移り変わりを描くことで、「変わらないもの」と「変わりゆくもの」が一作で表現されています。 是非、御一読下さい。
主人公は大学三年生の鉄平。大学生にもなれば、幼い頃とは色々なものが変わります。幼稚園の時の親友が今も友達とは限りませんし、小学生の頃好きだった給食のメニューが今も好きとは限りません。そしてそれは家族も同じ。家族の関係も変わっていくものです。あかぎれで荒れた手を見つめた鉄平の脳裏をよぎる、幼き日の祖母。一人暮らしを決めたきっかけである赤いきつね。けして甘くはないけれど、しょっぱいだけでは終わらない、心に『しみる』一杯でした。
人生が幾重にも積み重なっているような、そんな質の高い純文学です。4,000字という限られた字数の中で、ここまで内容の濃いものを表現される作者様には脱帽です。文章もお上手で品がよく、心情描写も巧みで、主人公の葛藤もよく伝わってきました。どなたでも楽しめると思いますが、純文学が好きな方には特にハマるのではないでしょうか。とても良い読書体験となりました。
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