ユーザー企画参加作品

ユーザー企画「カクヨム1周年ありがとう」参加作品

カクヨム48選抜総選挙

 作家アイドルグループ・KYMカクヨム48のセンター、神田かんだ秋葉アキバは今、港区赤坂にひっそりと立つ小さなライブハウスの舞台袖で、自分の名が呼ばれるのを待っていた。


 オタクの聖地、秋葉原の片隅に彼女達の専用劇場しょうせつサイトがオープンしてから、早くも一年の月日が流れていた。

 無名の素人ワナビ集団から始まった彼女達への風当たりは今なお強い。日本武道館おおがたしょてん横浜ラノベアリーナで華々しく新刊発売コンサートを開催するナロープロジェクトやアルファガールズの一流作家アイドルらと比べると、KYMカクヨム48の勢いは泡沫か塵芥ちりあくたにも等しかった。

 ナローやアルファの作家アイドル達が次から次へとベストヒットを飛ばしているのに対し、KYMカクヨムはかろうじて幾つかの新譜しょうせつを世に送り出したばかり。その売れ行きも決して好調なものばかりではない。

 勝てるはずがない、と業界の誰もが彼女達を嘲笑った。有力グループは大衆を味方につけて更に勢いを増し、無名グループは無名のままオタクの街の片隅で朽ち果てていく――それが市場の原理であると、大人達はしたり顔で語った。


 だが、秋葉アキバはこの場所から逃げるつもりはなかった。今は弱小でも、このグループには大きな夢がある。それを秋葉アキバに教えてくれたのは、KYMカクヨムの運営スタッフ達、そして日夜ともに執筆活動レッスンに励む仲間達だった。

 ここは、誰もが夢を目指していい場所だ。天賦の才を与えられた絶世の美少女にしおいしん天才子役出身者かわはられきではなくとも、普通の女の子ワナビが大きな夢を抱いていい場所だ。流した汗の先に、こぼした涙の先に、燦然と輝く商業作家スターへの道がある。そんな素敵な夢をただ一筋に信じて、秋葉アキバは今日まで、仲間とともに研鑽を積んできたのだ。


 その努力が試される最初の大舞台が、今日のこの日、KYMカクヨム48選抜総選挙コンテストの結果発表だった。

 順位を決めるのは業界のルールやお偉方の意思ではなく、彼女達を日々応援し支えてくれる読者ファン投票ひょうかだ。この仕組みを初めて聞いた時、秋葉アキバはそれをとても素敵だと思った。

 自分達は業界のお偉方に媚びるのではなく、ひたすらに目の前の読者ファンに楽しんでもらうことだけを考えていればいい。小さな小さな専用劇場しょうせつサイトで汗を流して笑顔を振りまく自分達には、まさにぴったりの選考方法ではないか。


KYMカクヨム48選抜総選挙コンテスト、一位は神田かんだ秋葉アキバ!」


 スタッフの叫びに呼ばれ、秋葉アキバはライブハウスの小さなステージの中心に歩み出る。瞬間、読者ファンの大歓声が彼女を包み込んだ。

「アキちゃぁぁん!!」

 眩いスポットライトの熱量以上に熱い風が、彼女の小柄な身体に吹きつける。彼女の順位を自分のことのように喜んでくれ、小さな会場を揺らさんばかりの声を挙げて彼女を讃える数百人ほどの読者ファン達の姿は、今の秋葉アキバには、ナロプロの作家アイドルが日々浴びているであろう何万人の大歓声アマゾンレビューの何倍も嬉しいものだった。


「みなさん、本当にありがとうございます」


 今は数百人の観客に見守られるだけに過ぎないこの選抜総選挙コンテストが、僅か数年後には日本武道館おおがたしょてんを満員にし、国内最大の瞬間最高視聴率ベストセラーを叩き出す国民的イベントになることを、彼女はまだ知らない。

 一位のトロフィーを受け取り、読者ファンの前で微笑みながら、秋葉アキバはただひたすらに幸せを噛み締めていた。

 感謝の気持ちは涙となって彼女の目から溢れ、止まらなかった。自分を選んでくれた読者ファンに。夢に向かってしのぎを削る仲間達に。そして、こんな素晴らしい舞台サイトを作ってくれ、夢を目指すきっかけを与えてくれた、KYMカクヨムの運営スタッフ達に、彼女は心の底から「ありがとう」と伝えたかった。


 彼女のグループが我が国の芸能しゅっぱん界を席巻し、日本にKYMカクヨムありと呼ばれるまでの存在になるのは、それからほど遠くない未来のことである――。


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