特撮監督・酒田浩平が「お茶漬け」を書いたら

 白金しろがね炊飯器マシンが唸りを上げ、灼熱の炎が米を炊き上げる。

 風雲ふううん急を告げるのは、夫が叩く玄関の鐘の音チャイム

 戦いの火蓋が切って落とされる!


「よくぞ帰ってきたわね! 今日こそあなたを倒す!」


 純白の杓文字ツールを構え、ミカは激しく戦意をたぎらせる。

 彼女の決意を嘲笑あざわらうかのように、夫は不敵な笑みを浮かべた。


「仕事に疲れた我が空腹……貴様の食事ちからで癒せるものなら癒してみるがいい!」


 立ちはだかるのは、ミカ独りの力では倒せぬ強敵。

 だが、今の彼女には切り札がある。母が実家より託してくれた新米コシヒカリが。


「お母さん……私に、力を」


 蒸気を上げる炊飯器マシンハッチを開けば、震える熱気が台所せんじょうを満たす。

 疾風かぜを纏う腕でミカが繰り出すは、勝利の合体攻撃コラボレーション、必殺の配膳。


「お母さんが託してくれたちからと――科学の粋を集めた食品わざで、あなたを倒す!」


『Flavor-01! SAKE-CHADUKE!』


 海を制する赤鮭サーモンの旨味が、熱湯ポットの助けで真空凍結フリーズドライの眠りから解き放たれる。


「愚かな! その程度で我が舌を満足させられると思ったか!」


 夫の眼力がぎらりと光を放ち、ミカの繰り出す渾身の湯気を弾き返した。――だが!


「まだ、終わりじゃない!」


 ミカがその手に握りしめたもの――それは、敵を制する最後のカード。

 もう一袋のフレーバーが解き放つのは、山を制する山葵ラディッシュの辛味!


『Flavor-02! WASABI-CHADUKE!』


「馬鹿な、二つの味付フレーバーを融合させただと!? 人間にそんな力が……!」

「トドメよ! これを食らいなさい!」


 狼狽うろたえる敵の眼前にミカは椀を叩き付ける。

 山海さんかいを制する奇跡の一杯、全身全霊の一撃を。

 決着の瞬間だ。


「ぐっ……おのれェェ! 我が疲れ、茶漬け如きが癒しきるとはァァァ!」


 爆風引き連れ床に降り立つミカの背後で、遠き空に爆音が轟く。

 部屋を震わすその音は、勝利の凱歌か、愛の讃歌か――。

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