憂鬱な織田信長が「お茶漬け」を書いたら

 苦しゅうない、おもてを上げい。

 このわしに「うぇぶ小説」とやらを書かせようとは、おぬし、なかなかどうして見上げた度胸じゃ。

 知っておるよ、流行りの「てんぷれ」とやらのことは。おぬしの同類の未来人どもが散々「なろう小説」とやらの話を聞かせてくるのでな。

 取り柄のない小僧を「ふぁんたじー」世界とやらに飛ばし、「ちーと」を持たせて「はーれむ」を築かせれば良いのじゃろう。

 これでわしも書籍化間違い無しじゃ。


 なに、そうではない?

 この「ぷろっと」に沿って話を書け?

 ふん、このわしに創作の内容を指図するとはな。よほど首と胴を切り離されるのが怖くないと見える。

 よかろう、おぬしの度胸に免じて、「ぷろっと」とやらに沿って筆を執ってやろうではないか。


いくさを終え、アキオは自陣へと帰投した。土間へ踏み入る彼を出迎えるのは、女房のミカである。お帰りなさいませ、と彼をねぎらうミカに、アキオは手早く食えるめしをと要求する。戦い疲れた彼の喉は、負担なく食える柔らかなかゆを欲している……。

 重い具足ぐそくを脱ぎ捨て、 アキオは囲炉裏いろりの前に腰を下ろす。かまどには既に湯が沸いているらしく、ミカが椀によそった雑穀ざっこくの飯に何やら湯を掛けている。生死を左右する戦場いくさばより戻り、女房の平素と変わらぬ姿を見て、アキオは今日もまた生き延びた喜びを胸に噛み締めるのであった。

 さて、ミカがアキオの前に椀を持ってきた。その見慣れぬ品にアキオは目を見張る。湯に浸かった飯の上に浮いているのは、何やら赤身のうおの小さな切り身のようなもの、細切れにされた海苔の欠片、そして見たことのない黄土色の粒である。この時代の人間であるアキオは知るよしもないが、それは遠い未来の世界において庶民の食卓に上る品、「いんすたんと」の茶漬けなるものである。

 日本における茶漬けの始まりは、番茶や煎茶が庶民の嗜好品として広まった江戸時代中期以降と言われている。まして「いんすたんと」の食品となると、遥かな時を経た二十世紀の到来を待たねばならぬ。そう、実はミカと申す女子おなごの正体は、時空を超えて未来からやって来た料理人だったのである……』


 どうじゃ、この出来は。「ぷろっと」に沿って茶漬けを描写し、落ちまで付いておろう。

 かっかっ、やはり書籍化間違いなしじゃ。書いたのは「かくよむ」運営お気に入りのわしじゃしな。どれ、わしにも茶漬けを持てい。

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