ユーザー企画「夏だよ 一つのプロットで文体見せ合いっこ!」参加作品

元風俗店勤務の「オレ」が「お茶漬け」を書いたら

 オレがいた風俗店からミカが足を洗ったのは、もう一年ほど前のことになる。

 夢は普通のお嫁さんになること、なんて語る風俗嬢は案外多いもんだが、実際にそれを叶えられるヤツなんざほとんどいねえ。ミカはその珍しいほうの一人になったってわけさ。

 ミカの旦那は中学時代の同級生だそうだ。フェイスブックづてに再会して結婚なんざ、今どき珍しい話でもなんでもねえが、ミカが風俗嬢をやってたことを知った上でそれでも求婚してくれたって言うんだから、なかなか泣ける話じゃねえか。


 店の女の子とは外で連絡とらねえのがオレのポリシーだったわけだが、幸せそうにノロケ話を語るミカの長電話には、ついついオレも信念を曲げて付き合っちまう。

 旦那の仕事はクルマ屋の営業だそうで、毎日疲れて帰ってくるらしい。「ご飯にする? お風呂にする?」なんて今どき三文ドラマでも見ねえセリフを旦那にかけるのがミカの幸せなんだと。旦那は玄関で靴を脱ぎながら言うんだ、手早く食べられるものが欲しいとか何とか。

 決してカネに余裕があるわけじゃねえから、ミカが旦那に用意するのはインスタントのお茶漬け一杯。風俗時代の細やかな蓄えは挙式に消えちまって、旦那一人の稼ぎじゃ家賃と光熱費とスマホの料金とクルマのローンを払ったらもう食費はカツカツなんだな。

 まあ、貧乏暮らしも若い二人には幸せのスパイスってやつよ。疲れて帰ってきた旦那がミカの顔を見た途端に安心した顔になって、ネクタイをゆるめて狭いリビングの小さい食卓に着く、そんな日常の一コマがミカには何より嬉しいのさ。

 安っぽい茶漬けを美味そうにかきこむ旦那。向かいに座ってそれを眺めてるミカ。いいじゃねえか、元風俗嬢がそんな人並みの幸せに収まってもよ。二人のガキの写真をフェイスブックで見る日が楽しみだぜ。

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