『新しい元号は平成であります』

「新しい元号は、平成であります」


 官房長官は手元の額縁をひるがえすなりそう言った。カメラのフラッシュが眩しく明滅し、無数のシャッター音が会場を包み込む。


「……は?」


 俺はメモを取るのも忘れてぽかんと目を見開いた。聞き間違いでも見間違いでもない。官房長官の掲げる用紙には、見慣れた「平成」のあの二文字が書かれていた。


「……エイプリルフールですかね?」


 隣に座る先輩記者にぼそっと小声で話しかけたつもりだったが、怪訝けげんな顔で「え?」と俺の顔を見返してきたのは、全く見知らぬ中年の記者だった。

 会場のざわめきは今だ収まらない。タチの悪いジョークにどよめいているといった風ではなかった。官邸の職員達が慌ただしく記者の机の間を回り、説明資料を配っていく。

 資料を受け取りつつ、俺はゴシゴシと目をこすった。

 次に顔を上げたとき、目の前に座っていたのは官房長官ではなく、テレビの中でしか見たことのなかったあの顔――平成おじさんと呼ばれた三十一年前の官房長官だった。


「え……?」


 自分の見ている光景が信じられず、俺は思わずきょろきょろと周囲を見回してみる。だが、そんなことをしているのは俺だけだった。記者達は誰もが食い入るように身を乗り出し、手元の手帳にペンを走らせていた。

 どいつもこいつも古臭い形のスーツを着ている。まるで、俺の知らない昭和の時代から抜け出してきたみたいに――。


「この新しい元号は、政令公布の日の翌日である以降において用いられることとなっております。また、只今の閣議で、元号の読み方に関する内閣告示と、改元に際しての内閣総理大臣談話が閣議決定されました。それでは、資料をお配り致したと思いますが――」


 俺が小学校に上がった頃に亡くなった筈の、後の総理大臣の声を聞きながら、俺は、くらくらする頭を片手で押さえていた。



 ◆ ◆ ◆



【本当に続いたりはしない予告編】


「2019年の世界から来たのは、俺達四人だけか……?」


「わかりやすい共通点があるわ。わたし達は平成しか知らないってことよ」


「冗談じゃない! スマホもネットも使えない世界なんて僕はまっぴらごめんだ!」


「いつになったら、この悪夢から解放されるんでしょうか――」



 ◆ ◆ ◆



「わたしに親はいないわ。で死んだのよ」


「まさか君、歴史を変えようと――」


「それが許されないなら、わたし達は何のためにこの時代に来たの!?」



 ◆ ◆ ◆



「ぼ、僕は彼女に乗るぞ。あの事件も、あの災害も、僕達の知識があれば止められるじゃないか!」


「死んじゃうはずの人が生き残ったら、そのぶん、生きてるはずの人が死んじゃうかもしれないんですよ」


「もっと根本的な問題は、誰も俺達の言うことを信じてなんかくれないってことだ……」



 ◆ ◆ ◆



「考えてもみろ。1989年からの三十一年間、日本は少しでも平和になったか?」


「きっと……本当にこの国が平和にならなければ、平成は終わらないんだ」


「俺はどうしたらいい。俺がこの時代でやるべきことは――」



 ――『新しい元号は平成であります』本編 執筆未定!

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