創作論

「三点リーダの使い方」や「行頭の字下げ」を守らねばならない、ただ一つの理由

 文芸創作界隈では「正書法せいしょほうを守れ」ということがよく言われる。三点リーダ(……)やダッシュ(――)は二つ繋げて使え、行頭には字下げのスペースを入れよ、カギカッコの末尾には句読点を置くな、エトセトラ、エトセトラ……。

 他方、これに対する反論も多い。ルールを守っていなくても内容が面白ければ良い、所詮は出版業界の慣習に過ぎず絶対のルールではない、アマチュアが趣味で書いているものに細かい指摘は野暮である、云々かんぬん……。


 この問題に対する本稿の立場は明確である。というのも、「作品は読者に読まれるためにある」という観点に立てば、この問題への答えはただ一つしかない。

 即ち、三点リーダ、字下げ、カギカッコ等の正書法は、である。一切例外はない。プロであろうとアマチュアであろうと、紙であろうとWEBであろうと、書籍化を目指していようといまいと、いついかなる場合においてもこれらのルールは守るべきである。


 私がそこまで強く言い切るのはなぜか。

 それは、「正書法を守っていないというだけの理由でその作品を読まない人が、世の中には必ず一定数いるから」である。

 対して、「正書法を守っているから読まない」という人は恐らくこの世に一人もいない。よって、守らないより守った方がシンプルに得なのである。


 作者個人のイデオロギーとして、正書法(であると現在されているもの)を守るのが正しいことだと思っているか否かはどうでもいい。

 これは、何が正しいかではなく、何をすれば得をするかの話である。

 正書法を守った方がいい理由は「そうしないことで損することが現実に有り得るから」であって、それ以上のことは考える必要がない。


 たとえどんなに文章自体が上手くとも、話の構成がしっかりしていようも、キャラが魅力的であろうとも、題材がキャッチーであろうとも、正書法を守っていないというただそれだけで「あ、昨日今日小説を書き始めたレベルのクソ初心者に違いない。読む価値なし」と思われることは現実にある。

 要は、正書法を守らないことで、不当に実力を低く見積もられてしまうことがあるのである。そのような判断基準を有している読者が、十人に一人か二人か、あるいは四人か五人か、確実に存在している。これは変えようがない事実である。作者自身が「ルールを守っていなくても自分の作品は面白い」とどんなに主張しようとも、こうした読者にとっては、正書法を守っていないという時点で「面白いか否かを判断する価値もないゴミ」でしかないのである。

 そして、そうした読者の中に、もしかするとその作品がバシッと刺さる潜在読者がいるかもしれない。

 だから正書法を守った方がいいのである。そうすることが単純に得なのである。


 世の中に、これほど明確に「こうした方が100%得、こうしないのは100%損」と言い切れるものも滅多にないだろう。

 例えば交通ルールというものがある。それは当然守るべきものだが、守らなければより早く目的地に着ける可能性もある。遵法意識に欠ける人にとっては、交通ルールを守ることはある意味で損であり、守らないことに一定の得があると言うこともできよう。

 しかし、正書法を敢えて守らないことで得することなど何もない。そこにはシンプルに、「一定の割合で必ず存在する『ルールを守らない作者はゴミ』派の読者を逃してしまう」という損があるだけである。

 そうした読者を逃すことを避けるために、あるいはその中に更に一定の割合で存在している「ルール不備指摘マウンティング系毒者」にイチャモンを付けられることを避けるために、正書法は守った方がいいのである。


 権威主義に従うことなどバカバカしいと思っている人も、お偉い文章のセンセイのためではなく、他でもない自分が得をするために、割り切って正書法を守るべきである。

 理性的な態度で正書法なるものの正当性を批判する立場にある人も、ルール信奉派に屈するわけではなく、他でもない自分が得をするために、割り切って正書法を守るべきである。

 正書法について特に何も考えていなかった人も、そのまま何も難しいことは考えず、他でもない自分が得をするために、割り切って正書法を守るべきである。


 一人でも多くの読者に作品を読まれたいと願っている全ての文芸創作者は、一切の例外なく、他でもない自分が得をするために、割り切って正書法を守るべきである。

 本稿の述べたいことはただそれだけである。




 最後に、自分が得をするために最低限守るべき正書法、及びそれに準じるものをまとめておく。



【正書法】


 1.三点リーダ(……)及びダッシュ(――)は必ず「二つ」繋げて使う。一つでも三つ以上でもいけない。ただし、四つ以上でも偶数個であればよいと考える人もある。間違っても三点リーダを中黒(・・・)で代用などしてはいけない。


 (正)三点リーダは二つ使うのが正しいのか……。

 (誤)三点リーダは一つでもいいじゃないか…。

 (誤)三点リーダなんてわからないから俺は普通に点を打つぜ・・・。


 2.行頭には全角スペースを一つ置いて字下げをする。


 3.カギカッコの末尾には、句点(。)や読点(、)を置かない。


 (正)「これが台詞の書き方だ」と彼は言った。

 (誤)「こう書いてもいいじゃないか。」と言う者もいる。


 4.感嘆符(!)及び疑問符(?)の後には全角スペースを一つ置く。


 (正)なんてこった! これがルールなのか? と彼は思った。

 (誤)別にいいだろ?どうでもいいじゃねえかよ!とアイツは反論する。



【その他、守った方が得するもの】


 5.感嘆符や疑問符、丸カッコ等は全角を使った方がよい。半角を使ってルール違反ということはないが、周りの文字が基本的に全角なのに記号だけ半角では見栄えが悪い。


 (巧)読者はシビアにそういうところを見てるぜ!?(少なくとも俺はな!)

 (拙)別にどうでもよくねえか!?(いちいち誰が気にしてるんだそんなこと)


 6.投稿サイトの仕様に合わせたルビ機能の使い方をするべきである。ルビが振れるサイトで読みをカッコ書きにするのは単純に格好悪く、正書法と同様に「この程度のこともしない作者なのか」と侮られ読者が離れることに繋がる。


 (巧)ここカクヨムではよ……こうやって読みルビれるんだぜ……!

 (拙)ルビを振れない奴は不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまったのさ……


 7.正書法とか以前の問題であるが、長音(ー)がダッシュ(―)になっているような初歩的な誤字を残すな。


 (並)オープンカーで湾岸線をドライブするぜ。

 (愚)オ―プンカ―がハードラックとダンスっちまったのさーー。




 以上。諸兄の創作人生に実り多からんことを。


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