概要
烏鵲元年九月の上旬、都に稀代の合戦侍り――室町擬軍記の怪作
風雲急を告ぐる都は嗚呼、名にし負うその平安より何と縁遠きことであろう。かたや祇園林の鴉、林真玄(はやしのさねはる)、こなた賀茂は糺の森の白鷺、津守正素(つもりのまさもと)……両者の諍いが軈て都はおろか畿内近国に棲まう数多の鳥達を紅白ならず玄(くろ)と素(しろ)との二手に分かつ大戦になろうとは! 孰れにもせよ、熾りし燎原の焔は総てを焼き尽くすまで消ゆることあるまいよ。皆々、大戦の帰趨に篤と刮目するが善いぞ!
室町後期、応仁の乱の頃に一条兼良によって著されたとされる異類物の擬軍記『鴉鷺合戦物語(あろかつせんものがたり)』の現代語訳(※抄訳)を試みます。テクストは新日本古典文学大系54『室町物語集 上』所収の「鴉鷺物語」(沢井耐三校注、岩波書店、1989)を底本とし、一部に潤色を施した私抄となり
室町後期、応仁の乱の頃に一条兼良によって著されたとされる異類物の擬軍記『鴉鷺合戦物語(あろかつせんものがたり)』の現代語訳(※抄訳)を試みます。テクストは新日本古典文学大系54『室町物語集 上』所収の「鴉鷺物語」(沢井耐三校注、岩波書店、1989)を底本とし、一部に潤色を施した私抄となり