「異世界で学問をする」というジャンルがある。現実とは違う世界を、学問を用いて解き明かしていくジャンルだ。未知の世界を解明していくと言うのは、学問自体の根源的な面白さを内包しているように思う。本作もその系統に位置付けられると言っていいだろう。先行作には生物学や物理学、言語学などを用いたものがあるが、本作の主題は数学だ。――え、数学!? マジで!?
未知の生物や物理法則がある世界は想像できても、異なる数学というのはちょっと想像できない。数学とは論理であり、因果律の記述、すなわち世界の基本だからだ。言葉遊びなどでなく1+1が2にならない世界というのは、ナンセンス文学の類だろう。
もちろん、本作でも1+1が2以外になったりはしない。それで居て本作で描かれるのはきちんと「異世界の数学」である。数学によって記述される世界が違うのではなく、数学自体の捉え方が違う――タイトル通り「背理法がない」世界が本作の舞台だ。
「背理法がない」というと難しく聞こえるが、要するに「否定の否定は肯定」という当たり前の考えが何故か馴染んでいない世界、ということである。それでいて数学は(現実での未解決問題が証明されるほどに!)高度に発達している。
本作ではこの奇妙な世界が鋭く考察の上で構築されている。背理法がないと数学の発展はどうなるのか? 人々の考え方はどうなるのか? そして、どうしたら背理法がない世界などというものが出来るのか? それらの謎はこの世界の歴史や真実に関わり、それが主人公の目的である「魔王を倒すこと」にも関係していく。
このレビューを執筆している現在、本作はクライマックス直前。異常識により成り立つ世界を味わうSF的な楽しみと物語の進行が絡み合い結実する時は目前だ。
もし少しでも興味を持ったなら一読をオススメする。それに際し、高度な数学知識は必要ない。実を言うと、私自身も数学自体が得意なわけではないからだ。この物語を楽しむのに必要な資格はたった一つ。未知の解明を楽しむ、知的好奇心の有無だけにある。
仮定と矛盾を繰り返しながら真実に近づいていく過程がかなり面白いです。しっかり構成が練られた物語が大好きなので、序盤からきっちりプロットが練られて、伏線も張ってあるこちらの作品はすごく趣味に合いました。
……ただ! 数学の考えがベースにあり、数式や証明もストーリー中にバンバン出てくるので、理系じゃないとアレルギー症状が出るんじゃないかな……?という所だけが難点かと思いました。数学ガチで分からん人は本当に分からないと思う。
ストーリーはめちゃくちゃ面白いんですが、読者の振り落としがとんでもなく激しすぎる!
しかし、第一章を読んでもアレルギーが起きないのであれば、続きを読んだ方がいいです。物語が進めば進むほどこの世界の真実に近づいていき、面白さが増します!!!
この先の展開がものすごく楽しみです!!完結まで応援していますー!!