第8話 幼馴染の夕食会議
陣容発表の夜。セフィード道場の双璧が肉を中心としたサンドイッチを大量に積み上げたカイの部屋で会談を行っていた。
遠征軍の陣容にはサヤカの名前が入っていた。これ自体はなんら不思議なことではない。田舎出身であるサヤカは良くも悪くも戦い方が騎士らしくない。必要に応じて、飛び道具、目潰し、なんでも使う。セフィード道場は実戦重視であり、練習相手としてその道具の使い方についても長けているのが実態だからだ。問題は、カイの名前がないことと、レグルが遠征に参加することである。
「やってみろと言わんばかりだねぇ。。」
サヤカの発言に軽くカイが頷く。カイの悲願達成の大きな障壁が二つあった。一つは、遠征に優先的に入れられていたため王の側にそもそもいられなかったこと。もう一つがレグルの善意の妨害である。このため、ルイ・カーベスを終えてからここまで、チャンスの気配も感じられないくらいの鉄壁だった。その上に宮廷騎士団のガードがあり、カイにしても、当面チャンスが来るとは思っていなかった。精鋭騎士として昇進を重ねて、そのうち生まれるであろうチャンスをじっと待っているところだったのである。
「せっかくのチャンスだから真面目に考えてみるが、宮廷騎士団の連中もいつも以上に警備を徹底するだろう。しかもレグルが隙を見せるとも考えにくいしな。」
「戦場なら、罠を疑うところだよ?」
「俺もその線を疑ってるんだが、、、今更俺をトラップにかけて何をしたいんだ?」
「出世しすぎる問題騎士に汚点をつけて出世を遅らせる!」
「なるほど、その線があるか。ただなぁ。」
「レグルがそんな真似するわけないね。」
「そうだよな。」
レグルは必要とあらば権謀術数を行使する能力を持っていることを二人はよく知っていた。宮廷内のいろいろな攻撃に対する対応もできなければ王子という職業で秀でた評価を受けることはできないのである。ただ、能力を持っている以上に彼らは友人としてのレグルの性格をよく知っていた。誠実に当たれば誠実を持って返す。そういう性格なのである。
「まぁ、考えても仕方ないな。近衛騎士として王城の警備はしなければならないし、様子をみながらチャンスをうかがうさ。」
「うーん、なんか気になるなぁ。」
二人で首を傾げて考えながらサンドイッチを頬張る。食堂に頼んで作ってもらったこのサンドイッチはカイの部屋で行われる会談の際のスタンダードメニューである。ベーコン、レタス、チーズを挟んだもの、揚げた鶏肉をマスタードソースで味付けしたもの、ふわふわに作られた卵焼きを挟んだものなど様々で、彼らはしばし黙々と食べ続け、胃を満足させた。
食後の一服として暖かい紅茶を飲みながら、サヤカが切り出した。
「レグルの思惑とかはよくわからないからおいておくんだけど、ムヘテ山について教えてよ。」
カイはひと月ほど前、ムヘテ山の麓の駐屯軍に所属しており、そこで功績を挙げたことで近衛騎士に叙勲されている。
山賊討伐としては先達であり、助言を請うのも当然の流れであったが、返す答えはサヤカを落胆させた。
「よくわからん」
「いやいやいやちょっと待って、真剣に答えてよ」
「本当にわからないんだよ。一週間くらいだからな、あっちにいたのは。」
「山賊追い払った功績で近衛騎士になったんでしょ?どうやったのさ」
「集落の見回りに行ったら山賊がいた。なんとか追い払ったら近衛騎士に叙勲された」
額に手を当て、天を仰ぐサヤカ。
「近衛騎士に所属するまでに頑張った私の過去が泣いてるよ。じゃあ、山賊の構成とか、気をつけなきゃいけないポイントとかないの?」
「基本的にはマサロ駐屯軍の指示に従った方がいい。」
「バンガロー隊長だっけ?山賊の狩りのスペシャリストなんだよね」
「ああ、ムヘテ山は素人がうろちょろできるような場所じゃないからな。専門家に聞いておけ。」
「了解、肝に命じておくわ、ふああ。」
サンドイッチを平らげ、一服済ませたサヤカは大口を開けてあくびをすると、席を立った。
「うん、いろいろ準備しなきゃね。部屋に戻るわ。くれぐれもしくじらないようにね」
片手を上げながら出て行くサヤカを送ると、カイもベットに横たわった。レグルの意図やチャンスを生かすための方法をいろいろと考え事をしようとしたが、大量に摂取したサンドイッチがそれを許さない。瞬く間に眠りの世界に旅立って行った。
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