第13話 王不在の城内
一方その頃、首都ダベルトスではカイは王城警護の任に当たっている。遠征軍出立の時のようなパレードでもない限り、首都の警護として王城内を巡回し、警邏するのが平常任務である。一般的な騎士達と同様に近衛騎士も役割分担とローテーションを組んで警護に当たる。
カイは対象がいないとはつゆ知らず、目標達成のための機会を伺っていた。しかし、王に近い警護は近衛騎士の中でも宮廷騎士が担当しており、彼等にはカイに与えられた権限のことは周知されている。必然、王の居室や玉座の間などの警護には当たらせてもらえない。
それでも王城の中の警護には当たっているため、王城内の間取りを調べて情報の最新化につとめていた。カイが侵入に使えそうだと思ってチェックしている経路は、他の人に見つけられるとすぐにレグルに報告され、その日のうちに対策がうたれるという即応性で、有効な経路を見つけることすらできていない。
現在では警備レベルがかなり上がり、結果、目標達成が困難になっていくという負のスパイラルが進んでいく一方だった。それでも、騎士全体の数が減っている今なら警備が緩む好きもあるであろうとひたすら王城内を巡回していた。
「さすがに、隙がないな。」
半ばカイも予想していたが、人数が少ないことは警護に当たる人間の緊張感を高めることにもつながる。平常時よりも王室周辺の警護は厳しくなっていると言えた。しかし、レグルがいないというのはカイからすると千載一遇のチャンスでもある。真面目に警護しながら真面目に侵入計画を練っていると、ガルトと出会った。
「カイ・ヴェルナー。」
「は。何でしょうか。」
「王城内の警備は順調か。」
「は。特に問題は身当たっておりません。」
ガルトは周囲を軽く見渡して人がいないことを確認すると、抑えた声で話しかけた。
「お前に与えられた権利、放棄する気にはならんか。」
「お言葉ですが、ガルト様。それは現在の私にとって最大の目標であり、生きがいです。ウーレ王が自ら私にくださった権利でもあります。放棄することはできません。」
その回答を聞いてガルトは表情を歪める。その表情は苛立っているようにも悲しんでいるようにも見えた。しかし、一瞬後には何事もなかったかのように話を再開した。
「詮無いことを聞いた。権利はさておき、任務は任務だ。しっかりと励め。」
「は。かしこまりました。」
ガルトが立ち去っていくのを敬礼しながら見送った後、カイは怪訝な表情になるのを抑えることができなかった。ガルトがこの件について踏み込んで話してきたのはこれが初である。お互い、この権利のことを認識しているため、なんとなく疎遠な間柄でもあった。直接的にその話をしてくるのも意外だったが、放棄できないと言った時の表情が、頭から離れない。
カイが知っている限り、鉄仮面とも呼ばれるほどの完璧な表情筋の持ち主であるガルトが表情を崩したことはない。権利を放棄する気がないと言ったのがそんなに意外だったとは思えず、あの表情をが引き出された理由がわからない。
モヤモヤが晴れないまま巡回をしていると、夕刻を伝える鐘がなった。本日の警護が終了となるカイは、他の近衛騎士に引継を行なったのちに王城から出て、市内に向かった。作戦遂行のためにはまず腹ごしらえ、がカイにとっての鉄則だった。
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