第12話 山賊への疑念
会議終了後、レグルは本営のレグル王子の部屋に呼び出して、切り出した。
「サヤカ、この状況見てどう思う?」
「うーん、ちょっときな臭いかな。」
レグルとサヤカは公共の場では身分をわきまえるが、二人になると急にフランクな関係になる。レグルはこのように話せる貴重な相手であり、サヤカからすれば友達でしかない。
「というと?」
「バンガロー隊長が言う通り、本当に一般的な山賊さんなんだとすると、山賊じゃないよね。」
「一見意味不明だが、言いたいことがわかるな。山賊といっても軍隊崩れの可能性が高いか。」
「ここにくるまでは、もっと泥臭いことしてるから駐屯軍と渡り合えていたんだと思ってたんだ。けど、違うみたいでしょ。」
「数が同じであれば駐屯軍と渡り合える練度の山賊か。すでに一般的な山賊ではないと思うが、軍隊崩れなら戦闘力も高いだろうしきな臭いと言うわけじゃないんじゃないか?」
「そもそも、山賊なのかなあ。」
サヤカが首をかしげるのをみて、レグルが怪訝な顔をしながら続きを促す。
「どういうことだ?」
「なんとなく、動きが山賊っぽくないんだよね。詳しく説明しろと言われても難しいんだけど。」
「サヤカの野生の勘を理解するほど俺の頭は良くないんだよ。なんとか説明してくれないか」
うーん、と天井を仰ぎながら、サヤカが言葉を発した。
「山賊ってさ、なんで山賊やってるんだと思う?」
「ん。唐突だな。そうだな、楽して金を稼ぎたいとかそんなところか?」
「そう言うケースもあるし、それしか稼ぐ手段がないって言うケースもあるし、人それぞれなんだと思うんだけど。」
「山賊の事情を考えたことはなかったな。それがどうきな臭さに繋がるんだ?」
「共通して言えることはね、襲って、儲けなきゃいけないんだよね。」
「それはそうだな。」
「今、街道の警備も強化されていて商人を襲って得られる獲物なんてたかが知れてるでしょ。拠点を複数跨ぐような大山賊団が生計を立てられるほど儲かってるのかなあ。」
レグルは息を飲む。その指摘は理が通っており、サヤカの言うきな臭さを理解した。
「山賊団の収益損失を考えたことはなかったが、確かに被害額を考えても維持費の方が大きくかかりそうだな。」
「儲けを気にしない山賊団って言う時点でなんか引っかかるんだよね。」
「そうすると、そもそも山賊団ではない可能性か。確かにきな臭いな。」
「もしこれが山賊団ではないとすると、ムヘテ山にこんな規模のダミー山賊さんを準備できるところは二つしかないよね。一つは我らがミスティア王国だけど、さすがにこの規模の山賊団を形成できるほどの兵力が行方不明になっていたら、気づくよね。そうすると。」
「ベルファリ、か。」
「あんまり嬉しくない予測だよねぇ。」
「仮にこの推測が当たってしまっているとして、目的はなんだ。」
そこで二人で首をかしげる。
「私がおびき出されたか?」
「ベルファリのお城さんなら展開のベタ読み的中させても不思議じゃないね。」
「山賊に紛れて私の命を奪う、か、、ただなあ。それでベルファリが得する展開になるのか。父上はまだ健在で、不要な混乱を招くだけだと思うんだが。」
「うーん、そこらへんは私は良くわかんないや。とにかく、注意した方がいいね。他に特になければ準備に戻るけど、いい?」
レグルはそれを聞いて、一瞬迷った表情を見せた後にサヤカに声をかける。
「すまん、今の話をもう一度別の部屋でしてほしい。」
「?いいけど、レグルがすればいいじゃない。」
「もちろん、理解したつもりだが、考える頭が多い方が良いと思う。ちょっとついてきてくれ。」
そう言って、レグルはサヤカを連れて奥の部屋に移動した。そこには宮廷騎士がおり、レグルの部屋と同等な警護が引かれている。
サヤカはフランクな態度は一旦しまいこみ、近衛騎士としてあるべき振る舞いをとっていたが、どうにも怪訝な顔になることを抑えることができなかった。レグル王子の居室以上に警護を厚くしなければならない場所などないはずだからである。
レグルがドアをノックして、中に入る。連れて部屋に入ったサヤカは思わず叫んだ。
「なんで、ここにいる、らっしゃるんですか!?」
そこには、いたずらっぽい笑みを浮かべる一人の男がいた。その男はサヤカの記憶が間違っていなければ、首都にいるはずのレグルの父親にして、カイのターゲットである人物である。
「なに、明日出陣の儀があるだろう。余も出た方が盛り上がると思ってな。」
唖然とするサヤカに対してレグルは疲れた表情で説明する。
「こういういたずらを思いついた時の父上を止めることは誰にもできない。覚えておくといい。」
「なんだ、ひどい言いようだな。王に対する敬意が足りんぞ。」
じゃれ合っている親子を横目に見ながら、サヤカはカイがチャンスを伺ってピリピリしているところを想像している。どんだけ神経をすりへらしたとしても、ターゲットがここにいるのでは成功の可能性はない。さすがに不憫に感じて心の中で手を合わせていたのであった。
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