第11話 討伐作戦会議
カイが出立を見送って数日後、レグル王子率いる山賊討伐軍がマサロに到着した。
計画では数日滞在した後、首都から来た騎士と兵士の約3分の1と駐屯軍の3分の1を警備に残して本格的な山狩りを実施する手筈となっていた。
今回の遠征ではマサロ駐屯軍とほぼ同規模の兵力が帯同されている。この地での戦闘力としては、兵の練度では遠征軍の方が上だが、地形に対する熟練度で駐屯軍の方が上、総じてほぼ同等というレグル、バンガローの共通見解である。
平常時、マサロ駐屯軍が山賊討伐を行う場合、駐屯軍の3分の2をマサロ市の警護に当てる必要があり、山賊討伐に当てられる戦力は約3分の1のみとなる。ムヘテ山は広く、予想される山賊の拠点も複数ある。兵力分散して各個撃破される愚をおかさないため、ある程度まとまった兵力で討伐に赴く必要があった。そのため、山賊の拠点をある程度絞り込んで叩く必要があり、次々に移動する拠点をモグラ叩きに叩くのが精一杯という状況で、致命的なダメージを与えることはできずにいた。
今回、親征してきた援軍分の兵力は丸ごと山賊討伐に当てられるため、普段の3分の1の兵力に比べ単純計算で4倍の戦力を投入することが可能となる。このことは、同時に攻撃する拠点を4倍にして、大きく捜索範囲を広げることができることを意味していた。遠征軍到着後、多くの捜索隊がすぐにムヘテ山に向かっている。捜索隊は一定間隔の距離をあけてこまめに連絡を取り合い、単独で撃破されないように、万が一撃破されたとしてもその情報がすぐに伝達されるように捜索している。相手に見つかることはある程度織り込み済みであり、プレッシャーをかけられれば充分、それで拠点を引き払えば攻撃する拠点数を減らすことができるため問題ないという判断である。
もし、拠点から全て山賊が逃亡し、もぬけの殻となった場合は街道を襲うために使用されていると思われる拠点に逆に駐屯基地を作り、街道整備をすることまでレグル王子は遠征の計画として立てていた。この計画作成に対してアドバイザーとしての立ち位置で参画したバンガローはその場で唸り、助言する必要がないと呟いてその後発言をしなかった。マサロ駐屯軍隊長のお墨付きを得たことで、レグル王子の計画は遠征軍、マサロ駐屯軍双方から支持を受ける結果となり、兵士達の士気は高い状態となっていた。
捜索が行われている間も遠征してきた討伐部隊は、地形について駐屯軍と情報共有や装備の調達などやることが山積みである。遠征軍に帯同している騎士も同様であった。サヤカを含めた近衛騎士はまず、レグル王子が開催する会議に参加する。駐屯軍基地の会議室に、レグル王子と近衛騎士と兵を束ねる隊長クラスから数名、駐屯軍からバンガロー含む数名が集まった。レグル王子が話し始める。
「ムヘテ山賊討伐の計画については事前に共有しているのでみんな理解していることと思う。その上で今回の討伐に対して必要な情報の確認、意見を聞くためにこの会議を開いている。忌憚ない意見を述べてほしい」
それに対して、真っ先に挙手をしたのがサヤカである。レグル王子はサヤカを指名し、サヤカは発言を始めた。
「ムヘテ山の山賊が用いてくる武器や戦闘内容について情報をいただけますか。」
それに対してバンガローが答える。
「ムヘテ山山賊はカタールやククリといった曲刀を好み、軽装備だ。後はスリングや弓矢をよく使ってくる」
「なるほど、一般的な山賊スタイルですね。煙幕や投網などはどうでしょう。」
「煙幕に投網かね?私自身は見ていないな。セフィード道場ではそのような山賊的な手段も想定しているのかね。」
バンガローは半ばあきれ果てたように返したのだが、サヤカは平然と返答した。
「は。私含めて門下生は相手として想定しており、鍛錬しております。また、私自身練習相手として使用することができますので今回の遠征でも使用する可能性を考えました。装備してきております。」
その答えは、バンガローだけでなく、近衛騎士を含めた周囲を唖然とさせたが、一人苦笑している王子が口を開いた。
「皆の者、どの世の中に山賊よりも山賊らしく戦う近衛騎士がいるのだ、という感じだな。だが、こういう者だからこそ今回の遠征に帯同したのだ。ただ、ここにきてから駐屯軍含めて調査させた結果、バンガローの発言通りあまり特殊な戦い方をしてくるものはいないようだな。これについては一定の信憑性があると思っている。サヤカ、どう思う。」
「は。山賊としてはそんなに特殊だとは思いませんが、もしこのような手段を使ってこないのだとすると、一般的な戦闘の訓練を受けた経験のある者で構成されている部隊の可能性が高いと思われます。」
「そうだな、サヤカの意見に私も同意だ。軍崩れの可能性が高いだろうな。バンガローはどう思う。」
「断定はできませんが、可能性はあります。」
「ふむ、決め打ちも危険か。まあそうであれば、我々としては逆にやりやすいだけだ。通常の戦闘訓練であれば我が騎士、兵士達は練度が高い。山賊に遅れをとることはそうそうないであろう。」
その場の全員が首肯することで同意する。
その後、簡単な共有を経て会議が終わった。
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