砂かけばばあの悩み

 昔むかしのタゴサクのお話。


 ある日、タゴサクの家に一人の訪問者がおった。砂かけばばあと呼ばれる妖怪である。

 長い白髪が印象的な小柄なお婆さんである。

「アタシはどうしたら良いのじゃろう」

 うつむき加減で呟くように訴える砂かけばばあ、タゴサクもどうして良いか分からず、ただ同じようにうつむいている。

 来てもらっていたお坊さんに確認してもらったが、

「間違いないようですね」

 こちらも、どうしようかという表情。


「だから、アタシは妖怪じゃあないんじゃ」

 砂かけばばあの悲痛な声が、心を打つ。


 つまりは、こういう事らしい。

 以前、砂かけばばあは、イタズラをする狸や、子供らを追い払うのに砂を投げつけていたらしい。もしも、石を投げて相手が怪我でもしたら可哀想なので、砂を投げつけていたのだが、そのうち、子供らが『砂かけばばあ』と呼んで、一層イタズラが増えてしまったんだと。ムシャクシャしたので、両手いっぱいに砂を抱えて、ぶちまけた。それが、道行く人の目に入ったりして大わらわ。

 その様子が面白くなってしまい、砂かけばばあ自身が、人々に砂をかけてイタズラをするようになってしまった。

「で、気が付けば妖怪あつかいされるようになってしまったんじゃ」

 ちょっと自業自得な感じもあるが、可哀想は、可哀想である。


「そこでの、ヌリカベやら一反もめんやらが、お城で妖怪たちが楽しく働いているから、お前も働きに来いというのじゃ。アタシはただの人間のババアじゃろ、お城で働くなんて、畏れ多くて仕方がない。どうしたら良いんじゃろう」

 悩む砂かけばばあ。

 先程、人間であることを確認したお坊さんも天井を仰いだまま、口を開きません。

 どうしようもない時間が流れていきます。


「タゴサクさんは、おられんか」

 また一人、お客がきたようです。

 招いてみると、それは妖怪小豆あらい。

「おう、砂かけのババアもおったか。まぁいいわい、お前も聞いてくれ、俺はもう耐えられない」

 小豆あらいは、妖怪ではないと言うのだ。

 以前、山中の河上で小豆を洗っていただけで妖怪扱いされ、今に至っているのだそうな。お城で働いているが、どうも皆を騙しているようで、心苦しい。どうにかしてほしくて、タゴサクに相談に来たという。


「増えた……」

 口を開いたのは、お坊さん。

 タゴサクも同じ事を思いました。


「仲間がおった!」

 喜んだのは、砂かけばばあです。

「お前もじゃったか。アタシも人間なんじゃ。おぉおぉ、一人ではなかったのじゃな。実はな……」

 砂かけばばあの話を聞いた小豆あらいも、満面の笑みにかわり、

「俺と同じ境遇の者がおったとはなあ。心強いぞ。のぅ砂かけのババアや、お前も一緒に城で働こうぞ」

「二人なら安心じゃ。行こう行こう。」

「タゴサクさんにお坊さん、ありがとのぅ」

「いや〜、ここに来て良かったわい」

 小豆あらいと砂かけばばあの二人は、笑顔で城に向かって行ってしまった。


「お坊さま、お城はそんなに簡単に働けるのですかね……」

「妖怪扱いだから、大丈夫なのかな……」

「はぁ」

 残されたタゴサクとお坊さんは、ただ呆然と二人が去った扉を見つめたまま、とりとめない話をしておりました。

 まるで、嵐の後。


 またお客さんが、

「すいません。タゴサクさんのお宅ですか。私、赤ちゃんの泣き真似が得意で、泣き真似ばかりしていたら妖怪扱いされてしまったのですが……」

 戸口に子泣きじじいが立っていた。

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