桃タゴサク

 昔むかしのそのちょっと前、タゴサクがまだ子供の頃。


 急にタゴサクが言いだした。

 「父ちゃん。母ちゃん。実は、僕は桃太郎なんだ! だから、これから鬼退治に行く」


 それを聞いた父ちゃん母ちゃんは、ビックリです。

 なぜなら、タゴサクは二人の子ですし、父ちゃんは山に芝刈りに行ったことも、母ちゃんは川で大きな桃を拾ったこともなかったのですから。


 鬼退治と目を輝かせるタゴサク。


 刀の代わりに、鍬は重いし、鎌はあぶないので、水を汲む手杓を腰にさす。

 鉢巻代わりに、豆絞りの手拭いで縛る。

 きび団子がなかったので、よもぎ餅。

 少々、奇抜な格好になってしまったが、さぁ出発。


 するとすぐに、ペットのポチがワンワンワン。

 「おぉポチか。鬼退治に付いてくるなら、きび、よもぎ餅をやろう」


 そう言うと、餅を食わせて手綱を持って、再び出発。


 また少し行くと、庭先の鶏がコッコッコッ。

 「おぉ鶏か。鬼退治に付いてくるなら、き、よもぎ餅をやろう」


 そう言うと、鶏を抱いて、再び出発。


 またまた少し行くと、近所のおばあちゃんが、

 「タゴサクや、鶏抱いて、犬の散歩かね」


 「いやいや、今日の僕は桃タゴサクじゃ。これから鬼退治に行くところじゃ。付いてくるなら、よもぎ餅をやろう」


 よく分からんが、おばあちゃんも付いてくることになった。


 タゴサク、犬、鶏、おばあちゃんの変なパーティーは、意気揚々(?)と鬼退治へ。

 と、ここでタゴサク、ふと気付く。鬼は、何処にいるのだろう?


 おばあちゃんに聞くと、向こうの山を2つ程越えた山奥に、鬼の家があるという噂を聞いたことがあるけど、行ったことも、見たこともないそうな。

 そこで、とりあえず山に行くことにしてみた。


 山に向かうと、鶏は暴れて走り出す。

 犬もつられて走り出す。

 おばあちゃんは疲れたって言う。

 タゴサクも喉が渇いてくるし。

 で、見知らぬ泉のそばで一休み。


 手杓で泉の水を汲んで、おばあちゃんに飲ませてあげようとしたところで、ボシャン。


 手杓が泉の中に落ちてしまった。


 どうしようかと思っていたところ、泉の真ん中あたりから女神様が現れて、


 「あなたの落とした……」


 女神様が言いかけたところで、木の手杓がプカ〜。

 浮いてきた。


 なぜか女神様は、金色の手杓と銀の手杓を持って、真っ赤なお顔。

 微かにワナワナと震えている。


 どうして良いか分からない。

 手杓を手にしたタゴサクとおばあちゃん。

 気にせず水を飲むポチと鶏。


 立ちつくす女神様。


 立ちつくす女神様。


 立ちつくす女神様。


 なんとなく気まずい雰囲気。


 タゴサクは、そっと残ったよもぎ餅を泉の傍にお供えして、もと来た道をスタコラサッサ。


 おばあちゃんも、ちょっとだけ女神様に手を合わせてスタコラサッサ。


 ポチも、尻尾をフリフリスタコラサッサ。 


 鶏も、コケッと一泣きスタコラサッサ。


 家に帰りましたとさ。



 ……で、立ちつくしたままの女神様。

 

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