タゴサクと伝説のうどん

 昔むかしのタゴサクのお話。


 町で、和尚と出会ったタゴサクは、お昼ごはんに、うどんでも食べようということになった。


 うどん屋に行くと、店主が走り寄ってくる。

「ちょうど良かった、お二人に相談にあがるところでした」

 店主が言うには、腰が強く、絶品だったという先々代の三十年前のうどんレシピが、倉庫にあると言うので、探しに入ったら古ぼけた葛篭があった。

 開けてみると、中には、一冊の本と一杯のうどんが入っていた。

 うどんは、汁から湯気を出し、麺もツヤツヤとした、出来たてそのもののかけうどん。

 はて? と、思ったのも束の間、麺が動き出し、倉庫で暴れているというのだ。


 倉庫に入ってみる和尚とタゴサク。

 そこでは、どんぶりから這い出し、蠢き、暴れまわる麺がいた。


「おぉ、これは、食べてもらえなかったうどんが怒っておる」

 和尚の言葉に、タゴサクが動く。

 箸を持ち、うどんに向かって行ったのだ。


 暴れるうどん。

 麺が槍のように襲いかかってくる。

 麺が鞭のように襲いかかってくる。


 うどんに目潰しをされ、叩かれミミズ腫れを作りながらも、一歩一歩近づいて行くタゴサク。


 あと少しというところで、うどんが戦法を変える。

 スルスルと伸びた麺が衣服の中に入ってきて、脇をくすぐってきた。


 笑いを堪えるタゴサク。


 くすぐり続ける麺。


 ついに我慢できなくなって、笑ってしまった。

 口の中に、大量の麺が侵入してくる。


 しめた! と、ばかりに、噛み切ろうとするタゴサク。

 か、噛めない。

 強すぎる麺の腰が、噛み切るのを阻害する。


 和尚がタゴサクの元へ走り出す。

「タゴサクさん、スイマセン!」

 深く踏み込んだ和尚の右の拳が、タゴサクのアゴを捉え、天井に向け打ち出される。


 アッパーカット!


 強烈なアゴへの衝撃が、タゴサクの意識を刈り取り、虚空へと突き抜けていく。

 口に侵入していた麺は、噛み千切られ、食道を通り胃の腑へと流れ込んでいく。


「美味い!」


 あまりの美味しさに意識を取り戻したタゴサクが、勢いよく麺をすすっていく。


 麺たちは、力無くうなだれ、どんぶりへと帰り、なすがままに食べ尽くされていった。


 一瞬の出来事であった。

 和尚が、アッパーカットを放ってから、食べ尽くされるまでの時間は、秒にも満たなかったのかもしれない。


 あとに残ったのは、天井に向け、拳をつきあげる和尚。

 空になったどんぶり。

 腹を押さえたタゴサク。


 キュルル…という音が聞こえる。

 地を這うような音だ。

 タゴサクの腹から聞こえる。

 三十年前のうどんは、刹那のタイミングでタゴサクの腹を壊していた。


「ト、トイレを……」

タゴサクの小さな呻きが、静まり返った倉庫に不思議と響いた。



「あの時は大変でしたな」

 和尚が蕎麦をすすりながら、タゴサクに言った。

「もう懲り懲りですよ」

 タゴサクも蕎麦をすすりながら、言葉を返す。

「御二方、良いところに。実は、倉庫にあった三十年前の蕎麦が、急に暴れ始めて」

 蕎麦屋の店主が走り込んできた。


 タゴサクは、そっと自分のアゴを押さえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る