のっぺらぼうのノッペらさん

 昔むかしののっぺらぼうのお話。


 一人ののっぺらぼうがおりました。

 のっぺらぼうと言っても、女性です。まだ若い、恋に恋する年齢でしょうか。


 さて、こののっぺらぼう、当然、顔は無く、のっぺりとした顔をしているのですが、よく見ると、目の部分には、真っ赤な南天の実が埋まり、形の良い、小ぶりな鼻がございます。


 なぜ目に南天の実? と、言いますと、以前、お城の堀で人を驚かせていたところ、ビックリした男が口に含んでいた梅干しの種を二粒吹き出して、目の部分に刺さってしまった。

 梅干しの種が取れずに悩んでいると、何故かお殿様と出合い、お城の皆さんに取ってもらった。そこで、顔に空いた梅干しの種があった穴に南天の実を詰めたと、いうことだ。


 そののっぺらぼう、今宵は、タゴサクの家に来ております。


 しばらくの間、玄関の前でノックしようか、どうしようかと悩んでいると、不意に扉が開きました。外に人の気配を感じたタゴサクが、扉を開いたのですが、開けたタゴサクは、その場で固まっています。

 それはそうでしょう、夜、玄関前に突然のっぺらぼうが現れてのですから。さらに、真っ赤な南天の実の目付き。


「すいません、ここはタゴサク様のお宅でよろしいでしょうか」

 のっぺらぼうが、そう問うと、大きくうなずくタゴサク。

 家の中に通してくれた。


 何故かタゴサクは、人々が眠りにつくような時間だというのに、ご飯を炊いている。

「で、どうされました?」

「あ、どうしても、もう一度お会いしたい人がおりまして。どうしようかと思い悩んでおりましたら、鬼さんにタゴサクさんに相談しろと言われまして……」

 遠慮がちに語るのっぺらぼう。


 タゴサクは、ジッとのっぺらぼうを見ていた。

 普段は見えないが、喋るたびにスッと、切れめが入っているように、微かに開く口。

 唇が無いだけで、口は、ちゃんとあるように感じられる。口角の上がった美人画にあるような口だ。

 それに、木の実で作られた眼。

 何処かであったような?


「以前、お城の皆さんにご迷惑をおかけしたことがございまして、その時お会いした、お殿様という方に、どうしてももう一度お会いしたいのです。タゴサク様、お願いできませんか」

 のっぺらぼうの、思い詰めたかのような言葉。

 真っ赤に染まったのっぺらぼうの顔が、恋の話であると、暗に伝えてくる。

 恥じらう姿がいじらしく、可憐だ。

 

「まぁ、ご飯も炊きあがったみたいだから、食べていきませんか」

 漬物を並べ、茶碗にご飯をよそおいながら、タゴサクが聞いた。

「いつも、こんな時間にお食事ですか?」

「いえいえ、今夜は特別です。お堀の方へ行こうかと思い、握り飯でも作ろうと思っていたところです」

 茶碗に箸をつけ、梅干しを頬張るタゴサク。のっぺらぼうにも、勧める。

「すいません。ご用事があったのですか?」

「モグモグ……。実は、私も、会いたい人がおりまして。以前、こんな時間でしたか、夜のお城の堀で見かけた女性に一目惚れと言うやつですか」

 そう言いながら、梅干しの種を土間に吹き出すタゴサク。


 アッ! この人、私の顔に梅干しの種を吹き出した人だ。のっぺらぼうは、思い出した。

 この顔。

 この梅干しの種を飛ばす仕草。

 夜のお堀とも言っていた。


 気付いてしまった、のっぺらぼう。

 これは、梅干しの種で、自分を苦しめた男。

「失礼します!」

 怒りやら何やらで、カーッとなり、タゴサクの家を飛び出した。


 自分の想い人が、人間外ののっぺらぼうであるとは思いもしていないタゴサク、ただ呆然と米を頬張りながら、妖怪は不思議だとばかりに戸口を眺めていた。



 一人歩くのっぺらぼう。

 あの時の犯人(?)は、分かったが、何も解決していない。

 ふと、お城の方に足が向き、お堀の辺りを歩いていた。

 そこに、

「あら、ノッペらさんじゃないかい」

 お堀の向こうから、若い女の声がした。

 女中のお妙であった。

 自分を『ノッペらさん』と呼ぶ人たち。

「どうした、こんな時間に」

「ノッペらさん、こんばんわ~」

「いつぞやの、ノッペらさんではないか」

 他にもお侍さんやら、他の女中さんたちやらが、手を振ってくる。

 中には、あのお殿様まで、手を降っている。


 寝苦しい夜、皆で涼みに出ていたらしい。

 のっぺらぼうは、誘われるままにお城の中に。


 こんなに簡単に……。

 あれ程悩んだ自分がバカらしく思えてきた。

 あたたかい。


「ノッペらさん、何泣いてるのよ」

 心配そうな、お妙の声が聞こえた。

「ほらほら、南天の実が流れて落ちてるじゃない」

「どうかしたのか?」

「寂しかったの?」

「友達じゃないか」

「ほら、泣くのをやめて。笑おう、また会えたのだから」



 後日、のっぺらぼうは、何故かお城で働くようになったのでした。

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