タゴサクと大きなヤカン

 昔むかしのタゴサクのお話。


 ドゴーン!

 ある朝、大きな音で目が覚めたタゴサク。

 外に出てみると、大きなヤカンが落ちていた。

 半分ほど地面に埋まったヤカン。空から降ってきたようだ。

「風呂ほど大きいの……」

 ついつい言葉が漏れるほどの、大きなヤカン。

 試しに押してみるが、びくともしない。

 どうしたものかと考えていると、峠の茶屋の看板娘の京さんが、やって来た。


「うわ。立派なヤカン。タゴサクさん、お茶でも沸かすの?」

 そう言いながら、いとも簡単にヤカンを持ち上げると、手際よくお湯を沸かし始めた。

 樽を担いで水を汲み入れる様は、とても華奢な外見から想像もできない。

 一通り、沸かす準備を済ませた看板娘の京さんは、また来るからねと言いながら去って行った。


 期せずも、ヤカンの番をすることになったタゴサク。

 水がなみなみと入ったヤカンは、下から薪でゴウゴウと焚かれている。

 そこに、お侍の団十が、女中を伴って歩いてきた。

「大きなヤカンですな。何の催しですかな?」

 そう言って、ヤカンの中に備長炭を大量に放り込んだ。

「ちょうど良い備長炭をいっぱいもらいましてな。備長炭を水に入れると、水がキレイになると聞きましたぞ」

「ちょっと、団十殿。勝手に入れてはいけないでしょう」

「妙どの、そうであった。すまぬなタゴサク。でも、よいだろう」

「ごめんね、タゴサクさん。また後でお茶菓子でも持ってくるからね」

 お侍の団十と、女中のお妙は、そう言いながら帰ってしまった。


 次に来たのは、ゴンザレス。

「あら、タゴサク。お花のお裾分け。って、おっきなヤカンね。大きなお茶会でも開くの? だったら、このお花で香り付け」

 そう言いながら、豪快に花弁を千切ってヤカンに入れます。

 もう、何が何やらわからなくなってきたヤカンの中。

 ゴンザレスが帰ると、タゴサクも家の中で一休み。


「あぁ、ええ湯じゃのう」

 次に聞こえたのは、近所の婆さまの声。

 タゴサクが家から出てみると、婆さまが風呂ほど大きいヤカンに、浸かっている。

「おぉタゴサクや。花湯とは風流じゃの。先に入らせてもらっておるぞ」

 正に極楽極楽状態の婆さま。

 タゴサクは、何も言えず立ち尽くしております。


 婆さまがヤカンから出て、一人になったタゴサク。

 ズシンズシンと音がして、現れたのは鬼。

「おお、ここにあったか。いいお茶が手に入ってなあ。湯でも沸かそうとしたら、ヤカンを蹴ってしもうたら、飛んでいってのう、探しておったところじゃ」

 ヤカンは、鬼のヤカンであったらしい。

「湯を沸かしてくれとったのか。ありがとうのタゴサク。ほう、花に炭まで入れてくれとるのか、これは気が利く」

 …… 婆さまの出汁も入っとる。


 鬼は、手際よく煮立った花弁を取り除くと、お茶っ葉を大量投入。

 周囲に、お茶の良い香りが広がっていく。


「あら、良い香り」

「タゴサク、どうだヤカンは」

「ちゃんとお茶菓子持ってきたわよ」

「ウ~ン。花茶の良い香り」

 看板娘の京さん、お侍の団十、女中のお妙、ゴンザレスがやって来た。

 その他にも、沢山の人が集まってくる。


「鬼の茶じゃ。皆で飲もうぞ」

 鬼の号令の元、皆でお茶会が始まった。


 ……でも、婆さまが入った風呂……。婆さま出汁の茶……。

 どうしても、茶が喉を通らないタゴサクに、皆が声をかけてくる。

「良い茶だ!」

「美味しいね!」

「皆で飲む茶は、格別じゃのう!」

「ほんに極楽極楽!」


 婆さま、お前さんも飲んどるのか……。自分の出汁の出とるお茶じゃぞ……。

 そんな事は言えず、ただ乾いた愛想笑いをするタゴサクであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る