ろくろっ首は、お城に行きたい

 昔むかしのタゴサクのお話。


 お昼過ぎの事でした。

 タゴサクのところに、一人の女性が訪れました。

 衿元をキレイに整えた御婦人という雰囲気の女性であります。


「タゴサクさまでしょうか?」

 落ち着いた声である。

「タゴサクさま、お願いがございます。お城へ連れて行ってはいただけませんでしょうか」

 どうやら、この御婦人は、お城に行きたいらしい。でも、タゴサクを訪ねて来たのだから、面倒くさい事情がない訳がない。

 聞いてみると、この御婦人は、妖怪ろくろっ首なのだそうだ。最近、のっぺらぼうをはじめ、ヌリカベ、一反もめん、小豆あらい、鬼火までがお城で働いているらしく、自分もお城で働きたい。ただ、一人で行くのは不安なので、タゴサクに付いて来てほしいとの事。


 のっぺらぼう以外の事情を知らなかったタゴサク。詳しく事情を聞こうと、とりあえずと、買っておいた餅を勧めた。

「美味しゅうございますね、このお餅」

「えぇ、峠の茶屋で貰ったものですから」

 パクパクと食べるろくろっ首。

 ── うっ

 声にもならない呻きをあげて、胸を叩きはじめた。顔面が蒼白になっていく。

 タゴサクの大丈夫ですかという問いにも応えられず、苦しむろくろっ首。餅が喉に詰まったらしい。そういえば、かなりあったはずの餅が空になっている。


 倒れ込んだろくろっ首。気道を確保しようと抱きかかえ顎を持ったタゴサク。

 すると、

 ── ズルッ

 ろくろっ首の首が伸びて、地面に垂れ下がる。

 慌てふためくタゴサク。


 そこにやってきたのは、近所のお婆さん。

「おやまぁどうした、大変だ」

 ろくろっ首の首を持って、伸ばしていく。

「タゴサクさん、とりあえず首を真っすぐにして、水を飲ますんじゃ」

 騒ぎを聞きつけ、他の人達も集まってくる。


 ろくろっ首は、首を伸ばし、竹でまっすぐに固定され、少しでも頭を上にと、頭を人々に掲げられている。

「水を入れるぞ~」

 遥か向こうの頭の方から声がした。

 ──ドッドッドッドッ

 水が首の中を流れる音がしてくる。

 でも、水は喉に詰まった餅を胃の方へ押し流すことはなく、餅をよけてどんどんお腹に溜まってくる。

 まるでカエルのようにお腹が膨らんでいくろくろっ首。

「水を止めるんじゃ〜」

 お腹が破裂しそうなほど膨らんだのを見ると、お婆さんは、声をあげた。

「とりゃ!」

 どうしようかと思案する間もなく、お婆さんは、その場で跳び上がると、ろくろっ首の膨らんだお腹にダイブ。

 ──プシュー!

 膨らんだお腹から、今度は口に向かって水が逆流。


 ──ポン ポン ポン ポン ポン

 面白いほど立て続けに餅が飛び出した。

まるで、ライフル銃の弾のように空中に打ち出されていくお餅たち。


 ようやく、落ち着いたろくろっ首は、皆にお礼を言うと、伸びきった首を元のように短く整え、なにごともなかったようにタゴサクにお城への同行を再度お願いしてきた。

「タゴサクさま、そろそろお城に連れて行ってもらえませんか?」

「はぁ、行きましょうか」


 お城についたタゴサクとろくろっ首。

 そこで見たのは、のっぺらぼうの軍団。

 よくよく見てみると、お侍さんやら女中さんやらお殿様まで顔が餅まみれ。

「さっき、空から餅が飛んできて……」


 どうやら、ろくろっ首が吹き出したお餅たち、お城まで飛んできたようでございます。

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