第14話

クレイトン・E・ラパポーツは、屋敷の中で剣を見つけた。

「なんだ?」

妙に気になる。近づいて恐る恐る手を伸ばす。触れた瞬間だった。頭の中に声が溢れ出した。

たくさんの怨嗟の声だ。中にはアルヴィーの声も入っていた。

直観で分かった。

「これで……ころされたのか……」

アルヴィーたちは何者かに剣でころされたのだ。この、剣で。


「何が永遠だ」


「あの王子は人をころして創られたんだ」


「そんなものが」


「高尚な神なものか!!!」


怨嗟の声はクレイトンの脳内に響く。

「……その通りだ。やはりガーギルが仕組んだことなのだ。全部」

この剣を使ったのはガーギルだ。

「あいつを……ころさなければ……」

剣を握って屋敷を出ようと振り返った時、クレイトンの後ろにその人……ガーギルがいた。

「君、その剣の声を聞いたのか?」

「…!」

「そうか……私も聞いたのだ」

ガーギルが俯く。

「しかし、こうするしかなかった……紛争を終わらせるには……。

絶対的な神の存在がなければ、この地は何度でも紛争が起きる。それを無くすために1000年分の命が欲しかった……」

「そんな理屈か……!」

クレイトンは剣を構える。

「そんな理屈で!お前はヴィクターを!!!」

「彼には1000年の寿命と超人的な魔力がある」

「ころしてやる!!!!!!」

「彼をころすことはできない」

「何故だ!!!!!!」

「割れないのだ。あの砂時計は強固すぎる」

「……!!!」

「神は人間にはころせない」

その瞬間、クレイトンは、自分の腕が勝手に動くのを感じた。

「……なっ……!!」

気づくと、その剣はガーギルの胸を貫いていた。

「こうなることは……分かっていた……」

「私は……もう用無しだな……」

「砂時計……永遠の砂時計……」


「……っ」

クレイトンが後ずさる。剣を抜いた場所から血が噴き出した。

(この剣が、ガーギルをころしたいと……勝手に……)

(だが、俺も思った……こいつは……ころしたい……)

(だから、ころした……)

そう自分に言い聞かせて、剣を握る。

「ヴィクター……ヴィクター・L・レアンドロ」

目を閉じて、深呼吸をする。

「あいつをころさなければ、この砂漠の地は」

おかしな信仰で染まってしまう。




花壇に花を植える一組の男女がいた。

「スーシェ、僕はね」

「花を見ると、この国の平和を実感するんだ」

「紛争がなくなったから、花を美しいと思えるようになったんだ」

金髪赤目の美しい少年、ヴィクターと。

赤髪紫目の幼さの残る少女、スーシェ。

2人の間にはたしかに愛が芽生え、ヴィクターはスーシェを毎日王宮に招いていた。スーシェは王宮の裏にある墓に花と酒を供え、一日のほとんどをヴィクターと過ごすようになった。

「君が言っていたことを、僕も実感しているんだよ。国は平和じゃないといけない」

「うん……」

「ねぇ、スーシェ。僕ならば……僕ならば、君に幸せを与えられる。2人で平和を継続させよう。だから、これからもこの国で……」


「貴様!!なんのつもりだ!!!!!」


突如、王宮内に怒号が響く。2人が王宮の方を見ると、騎士団が剣や槍を構えているのが見えた。

「て、敵襲!?」

「ヴィクター、下がっていてください!」

スーシェが右手を前に突き出す。魔法弾を使おうとしているのだ。

「王子が『割れたら』この国は終わりだ!!おい、そこの女!王子を連れて逃げろ!こいつは王子を割ろうとしている!!」

騎士団の1人が言う。スーシェはハッとして、ヴィクターの手を握って走り出そうとした。

が、

「スーシェ!危ない!」

ヴィクターがスーシェを突き飛ばし、敵の前に立ったのだ。

「……!き、君は……!!クレイトン!?」

「ヴィクター!お前は俺が『割る』!!!」


「クレイトン」


聞き慣れた声が後ろからして、クレイトンの肩が跳ねた。瞬間、体を掴まれる。

「ローク……お前までこいつの味方をするのか!こいつがどうして王子になったのか知らんのだろう!!目を覚ませ!こいつは……!」

「知っている」

「なっ……」

「クレイトン、お前は砂時計の秘密を知ったのだ。なら、生かしてはおけん」

「な、何を言って……」

「そもそも王子をころそうと襲撃をかけたのも大罪だ」

「ローク……目を覚ましてくれ!!!わ、わかった!お、お前もガーギルに嘘を吹き込まれたのだな!こいつの砂時計は本当は神聖なものなんかではな」

「知っていると言った。それに、俺だ。この俺がその剣で……」

そう言ったとき、ロークの腕の力が緩んだ。すかさずクレイトンが抜け出し、ヴィクターに剣を突き立てる。

「!!!」

しかし、剣は彼の胸に刺さらなかった。

「は……っ……」

クレイトンが目を見開いてその場に崩れ落ちる。既に騎士団が取り囲んでいたため、すぐに拘束されてしまった。

「……さ、刺さらない?何故だ」

「ヴィクターは割れない。もう、神になったからだ」

「そ、そんな……では、もう、永遠に……」

クレイトンの声は震えていた。



王子をころそうとした男はすぐに処刑が決まった。

処刑の日、彼は何も言わず断頭台に上がった。そこはまだ造られて間もない、大陸の真ん中に位置するペルピシ議会場の近くにある『大罪人を裁き、処刑する』場だった。

処刑は見世物にされ、剣は王宮騎士団が管理することになった。

しかし、騎士団の団長ロークはその怨嗟の声に耐えきれなくなり、ひっそりとラパポーツ家に渡しに行ったのだ。クレイトンの兄は弟の死を悲しんでいたが、王子をころそうとしたのは罪に違いないと言っていた。

「この子は紛争が続いていたら生まれなかった子だ」

クレイトンの兄には子がいた。

「……王子がいるから、生まれたんだよ」

一族の汚点として、その剣は封印されることになったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る