終章

「……」

アレストはページを捲る。

(ガーギルとクレイトンが亡くなった後、王子ヴィクターとスーシェが結婚。二人の間に一人の男の子が生まれる。

ラパポーツ家とスティール家はレアンドロ王家に忠義を尽くし、有力貴族になった……か)

最後のページに、なぜこの本を執筆したのかが載っていた。

『これは私の推測でしかありません』

「そりゃあそうだろうな。全てを実際に見たではないだろう」

アレストが苦笑する。

『今日、私たちの間に男の子が産まれました。背中には赤い砂時計がありました。恐ろしいものを見てしまった気持ちになりました。私は……禁忌を犯してしまったのかもしれません』

『兄の死は悲しいことでした。ですが、それよりももっと大きな不安があります。

それは、1000年後のシャフマの未来です。きっと、大変なことが起きます』

『それが何かは私には分かりません。そのときの王子には砂時計を壊して欲しいです。私たちには砂時計は必要でした。ですが、1000年後には砂時計がいらないシャフマになっていて欲しいです。この物語を、1000年後に託します。

スーシェ・L・レアンドロ』

「ふっ……なったぜ。スーシェサン」

アレストは目を細めて本を閉じる。

「ロヴェールは俺にこれを伝えたかったんだな。ふふふ、粋なことをするねェ」


砂時計は、おぞましい。

だが、命を奪ったのと同時に多くの命を救ったのだ。

1000年前、たしかにこの地を救ったのだ。


(それでアイツ……メルヴィルが生まれたなんて言ったら、どんな顔するかねェ)


「いや、さすがに地雷だな。ふふふ」


アレストはその本を自室の本棚に入れた。


「これは俺だけの秘密にしよう。いや、俺と……ロヴェールの、か」

知らなくてもいい。だってもう砂時計は必要のないものなのだから。


「俺もロヴェールもただの人間になった。剣は消えた。それでいいじゃないか。だが……砂時計に国を託し人を救おうとした正義、それに疑問を持ち幼なじみの王子をころそうとした正義、そんな物語があったことを覚えていてもいいかもねェ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

砂時計の王子 〜episode 0〜 まこちー @makoz0210

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る