第7話
すっかり夜になってしまった。ヴィクターは地主の屋敷の前で深呼吸をする。
「話を……したいです、そう言えばいいよね……」
掠れた声でぼやく。
「……君は?」
「!」
屋敷の周りにあった畑にいた中年の男がこちらに駆け寄ってきた。
「私はツザール村の地主、ガーギルだが。何か用かね?」
「地主さん!!ぼ、僕はヴィクターです!は、話を聞きたくて……!」
「……」
ガーギルはヴィクターのやせ細った体を見て、「クッキーを焼いてあげよう」と屋敷に招いた。
「ヴィクターくん、といったか」
「はい……」
クッキーを焼いている間、ヴィクターは屋敷のソファーに座ってガーギルと向き合っていた。
「君には苦労をかけているようだね。『子ども』認定はされなかったのか」
「僕は何十年も生きられないからです」
「そうか」
ガーギルは頭を下げた。
「すまなかった。条例は、平等では無いのは事実だ」
「……」
「だが、これももうすぐ終わる」
「えっ、条例が終わるんですか!?」
それは初耳だ。ヴィクターは驚く。
「あぁ。だが、ひとつ問題がある」
「問題?」
「君は……この先の安寧を約束する神が欲しいと思ったことはないか?」
その言葉に、ヴィクターは昼間に聞いた男二人を思い出す。地主は神を創ろうとしている、と。
「欲しいです!それがあれば紛争がなくなるのならば」
「君が神になってくれるのであれば……誰にも言わないと約束をしてくれるのであれば……」
ガーギルが紙を出してヴィクターに見せる。それこそがいわゆる『永遠の砂時計』の設計図だった。
「……!これは……」
「『永遠の砂時計』だ。人間で創る、神だ」
「人間の寿命を砂にする……」
ガーギルが頷いた。
「ぼ、僕は何をすればいいんですか?」
ヴィクターは、まさに理想だと思えるその計画に興奮を隠せなかった。
「所有者になってくれ。砂時計をその身に入れるんだ」
「所有者に……!」
「本当は、心苦しいんだ……。人ではないものになるというのは未知の領域だからな。何が起きるのか分からない」
「いいです!!僕は!」
ヴィクターがガーギルに言う。
「僕に砂時計を入れてください!それで皆が幸せになるのなら、喜んで受け入れます!」
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