第8話

その日から、ヴィクターとその母はガーギルの屋敷で暮らすことになった。

「あとは容器の創り方だ……」

ガーギルは村の研究者たちとよく話し込んでいた。

「容器さえできれば……」

「拒絶反応が出たらいけないから……」

「ここをこうして……」

その会話はヴィクターには理解できないものだった。

ガーギルは地主といえど、他の村の人々とほとんど変わらない生活をしていた。裕福ではなかったのだ。それでもヴィクターと母親には自分の分の食料を躊躇なく分けていた。


「正直、私たちは君たちに愛着はない」

「しかし……酷いことをするのは事実なんだ」

「たとえそれがこの村を救うことになっても」

「正義、だとしても」


ガーギルは目を伏せて繰り返した。




〜ツザール村 配給場所〜


「今日は人が多いな。向こうの村の連中が来ているのか?」

クレイトンが朝のスープを飲む。ロークもスープを飲んでいた。

「おっ!久しぶりだな、お前さんたち!ヴィクターは元気か?」

「お久しぶりです!」

アルヴィーとスーシェだ。

「地主の屋敷で大切にされているらしい。前に手紙が来た」

「へぇ、そりゃあ良かったな」

「何故アルヴィーたちがツザール村に来たんだ?」

「あぁ、それがな。俺は選ばれたらしいんだ。スーは選ばれなかったんだが、俺の付き添いってことで隠れてここに来た」

「秘密ですよ!」

スーシェがイタズラっぽく笑う。

「選ばれた?何に?」

「『最優秀の子ども』に。これからはツザール村のでかい家でご褒美を与えられるらしいぜ」

「ご褒美?なんだか胡散臭い話だ」

クレイトンが眉を寄せる。

「健康に育った『子ども』だけが享受できる褒美らしいぜ。楽しみだぜ!」

アルヴィーは上機嫌だが、変な話だ。

「ツザール村からは誰が選ばれたんだ?」

「ロークくん。こちらに来なさい」

白衣の男がクレイトンの隣に座っていたロークを呼ぶ。

「おっ。お前さんか。たしかに体が大きくて丈夫そうだもんな」

アルヴィーが豪快に笑う。

ロークは黙って男について行った。


「ロークくん、君のお兄さんが亡くなってしまったことは友達に言ったのかい?」

ロークが首を横に振る。

「そうか……母も父もきょうだいも失い、本当に気の毒だな」

「同情ならば良い。話はそれだけか?」

「いや、そんな君に頼みたいことがあるんだ。もう紛争が起きなくなり、人がしなずに済む方法が見つかったのだ」

「……!なんだ、それは」

「この計画だ。協力してくれるね?」

そこに書かれていたのは、寿命を砂にするための『子ども』殺戮計画だった。

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