第9話


〜数日前〜


「ローク、兄は戦地に行くことが決まった」

「……父さんの仇か」

「あぁ」

「『条例』は?」

「俺も『子ども』認定はされたんだが、断った。地主に『戦地に行く』と告げたら、悲しそうな顔をしていたよ」

「……」

「ローク、俺は間違っているのかもしれない。だが、仇を取りたいんだ。それだけなんだ。兄を許してくれ」

「それが兄さんの『正義』ならば」



(兄さん……)



ロークは返事が出来ずにいた。

(しかし、兄も父もしんだのだ)

(信仰のために、俺を置いて)

(間違っているのかもしれないが、俺は……)

深呼吸をする。そして目の前の男……ガーギルに向き直った。

「やる。これで紛争が止まるのなら、俺はこの槍で『子ども』たちをころす」

ガーギルは一瞬目を見開いたが、すぐに目を瞑り、短く息をついた。

「そうか……ありがとう。君がやったということは皆には分からないようにする。私には他の役目があるのだ……汚れ役をやらせて本当にすまない……」

そう言うと、ガーギルは「すぐに準備に取り掛かる。こちらに来てくれ」とロークを連れて自分の屋敷の方に向かった。



「ローク、遅いな」

「あいつは選ばれたわけじゃなかったな。クレイトンも選ばれなかったな……残念」

「俺は別に良い」

「スーも選ばれたかったです!兄さんばっかりズルいズルい!」

スーシェがアルヴィーを叩く。

「ま、俺は肝臓以外は優秀だったってことだろ!」

「……」

(妙に引っかかる……『子ども』たちに配給をするだけならばまだ慈善事業のようなものかと思えたが、その中から優秀な奴らを集めて何をするつもりだ?)

クレイトンは嫌な予感を覚えていた。

(『長く生きられそうな健康な若い男女』を集めるのか)

一瞬不埒なことが頭を過ぎったが、高齢者を排除している政策である以上、人口を増やしたいわけではないのだろう。

(太らせて集めて、まるで今から『食う』かのように……。ん?そうか、今度は人間の肉を『食う』のか!?)

クレイトンは真っ青になる。

(そう考えると辻褄が合うぞ……。美味しそうな奴らを『子ども』と呼んだのか)

アルヴィーが危ない。そして行方がわからなくなったロークと、地主のところにいるヴィクターも!

クレイトンは勢い良く立ち上がると、アルヴィーとスーシェに何も言わずに走り出した。

「え!?クレイトン?どこ行くんだよ!?」


クレイトンは、地主ガーギルの屋敷に走り出した。

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