第10話

〜現在〜


「胸糞の悪い話だな」

アレストは書物に栞を挟んでパタンと閉じた。

「これは誰が書いたんだ?こんなの書いた奴は粛清される流れだろ。……スーシェ……あぁ、赤毛の男アルヴィーの妹か。女が書いたのか……。さすがに現代語に訳されているが。訳した奴もすごい度胸だねェ……」

喉奥で笑う。腕を広げてベッドに仰向けになる。

「……スーシェ、か。どうしてこの女が砂時計を懐疑的に描くのか……もう少し読んでみるか」

アレストは一度置いた本をもう一度手に取って開いた。



〜1001年前、ツザール村〜


砂漠の地がシャフマ王国になる日。


クレイトンは屋敷に辿り着く。外からは見えないが、中にはヴィクターとその母、そしてロークとガーギルがいる。

(様子を見るか)

クレイトンが息を潜めて窓から中を見ようとするが、暗幕が引いてあって見えない。

「……」

目を閉じて声を聞く。


「……ヴィクターくん、本当にいいんだね?」

「うん。母さんも喜んでくれたから」

「えぇ。この子が幸せを運べるのならば」

「分かった。目を閉じてくれ」

ガーギルが言う。ヴィクターは目を閉じた。

「……砂時計の所有者と容器に……」

ガーギルが腕に力を込めると、赤い光が辺りを照らした。クレイトンもそれに気づく。中で風が吹いたのだろう。暗幕が揺れて窓から中が見れるようになった。

「!!」

(ヴィクターの母が、いない!?)

目を閉じているヴィクターの隣にベッドがあるのに、先程まで声がしていたのに。どこかに転送されたのか?

(あれはなんだ?)

クレイトンは、ヴィクターの額に浮かんだ真っ赤な模様を見た。

(砂時計の、模様?)


「!?だ、誰かいるのか!?」

ガーギルに気配を気づかれた。クレイトンは慌てて逃げようとするが、遅かった。既に背後には白衣の男たちがいたのだ。

「し、しまった!!!」

白魔法をかけられ、身動きが取れなくなる。

(ヴィクターが、人体実験をされているというのに……)

(気を失う訳には……)

そう思っても目は開かず、クレイトンはそのまま意識を手放した。

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