第11話
アルヴィーが呼ばれる。
「スー、後でな。あ、先に村に戻ってていいぜ」
「ううん、ここで待ってる」
「ははは、お前あれだろ!俺のお土産に期待してるんだろ?」
「うっ」
「分かった分かった。少しは持って帰ってきてやるから利口に待ってろよ」
「うん、私待ってる」
アルヴィーはスーシェを残してガーギルの屋敷に向かった。
「……」
ロークがガーギルから渡された仮面と鎧を身につける。
(父さん……兄さん……)
(これは俺の『正義』だ。もう誰もつまらないことでしなないようにするために、絶対的な神を創る……それも『正義』だ)
(……永遠の安寧のために)
深く息を吸い、ドアを開く。
「誰ー?」
「クッキーをくれるの?」
「美味しいものちょうだい!」
部屋には10人の小さな子どもがいた。
(10人、80年……)
「800年分……」
ロークが小さくつぶやく。首を傾げる子どもたちの前で剣を取り出す。
ロークは剣の扱いには慣れていなかったが、ガーギルからは「これでころしてくれ」と剣を渡されたのだ。
ーこの剣には何か特別な効果があるわけではない。……私は君のその槍を使わせたくないだけだ。
ーこの屋敷に入れた時から『子ども』たちには『処置』が済んでいる。クッキーの中に特殊な砂を入れておいたのだ。
ーだから後は君がころすだけだ。特殊な砂を摂取した者は何時間も経たないうちに自我を失って砂になってしまう。その前にころしてやってくれ。
ガーギルの言葉を思い出し、ロークが剣を構える。そして、密室に閉じ込められた10人の子どもたちは為す術なくころされていった。
「……」
この屋敷に呼ばれた『子ども』たちには共通点があった。健康で寿命がよく取れそうなことはもちろんだったが、紛争で両親を亡くして行く宛てのないことも条件だったのだ。
ロークは子どもたちに自分を重ねた。しかしまだ200年分が足りない。終わってはいないのだ。
「あと200年……」
子どもたちの返り血で濡れた剣を持ち直す。この屋敷にいるヴィクターとガーギル以外は標的だと教えられた。廊下に出ると、3人の若い男がいた。1人の青年が他の2人に「何か危険なことが起きている。はやく逃げよう」と言っていた。ロークはゆっくりと3人に近づく。
「ひっ!?」
そして、迅速にころした。
「……3人で150年か。あと50年」
そのとき、玄関が開いた。呑気に口笛を吹いている男が入ってくる。
「ん?」
長い赤毛の男だ。
「なんだ?仮装大会か?妙にリアルだなおい」
ロークの鎧を見てそんなことを言う。
(アルヴィー……)
彼からはロークの顔は見えないだろうが、ロークにはすぐに分かった。隣村でスープを分けてくれたアルヴィーだ。
ロークは仮面を外した。
「え!?ローク!?やっぱりお前も呼ばれたのか!」
アルヴィーが嬉しそうに笑う。
しかし、ロークは剣を構えてアルヴィーに向けた。
「……な、なんだ?」
「アルヴィー。お前も永遠を刻む砂になってくれ」
そう言うと、無防備なアルヴィーの腹に剣を突き立てる。
「あ゛っ……!?」
膝を落とし、その場に蹲るアルヴィー。それを冷静に見ながら、
(こいつには砂を飲ませないといけない)
と、判断し、血を吐いている口の中にガーギルからもらった予備の砂を流し入れた。
彼は抵抗をしなかった。できなかったのだ。
「ロー……ク……どう、して……。も、もうやめてくれ……」
腰を抜かしたアルヴィーがロークから距離を取ろうと後ずさる。
「な、なにかの……冗談だろ……?間違って……刺しちまったんだろ?そ、そうだよな……?」
「ま、まさか、俺……の、体……を、食うつもりか……?お、おいしくねぇぜ……酒と少しのスープしか入ってない……し……」
「それとも、寿命か……?お前は……実は、悪魔で、俺の寿命目当てで……近づいたのか……?だ、だ、だったら……はあっ、はあっ……俺は……よした方が、いいぜ……短い命だろうからよ…ぉ……」
「お前の寿命は50年だ。これで合計1000年になる」
「あ、悪魔……!本当に、お前は悪魔っ……だったのかよ……!!あああ゛っ!!!!!」
アルヴィーの腹に、今度は深く剣を突き立てる。剣にぽたぽたと涙が落ちる。アルヴィーの紫色の瞳から……大粒の涙が……。
ロークはそれを見ていられなくて、抜いては刺し……何度も何度も剣で腹を抉った。
(アルヴィー……)
動かなくなった彼の体は、他の者がそうであったように、静かに砂になっていった。
ロークはそれを見ても涙が出なかった。泣けなかったのだ。しかし達成感を覚えたり興奮したりすることもなかった。ただただ虚無感が体を重くする。
アルヴィーの砂がその場から消えてしばらくすると、放心状態だったロークの肩を誰かが軽くたたいた。
「ローク、ありがとう」
「ヴィクター……!」
ヴィクターがロークに抱きつく。
「ありがとう……神は完成したよ。君のおかげだ」
その日、1000年の砂時計が時を刻み始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます