第1話
〜時は、シャフマ王国ができる2年前に遡る〜
〜ツザール村〜
トルーズク大陸、西の砂漠地域では、それぞれの信仰を持った人たちが度々対立していた。
資源もなく、雨も降らないこの地では、何かを信じて懸命に生きなければしぬのが道理だった。
「ヴィクター!早く逃げるぞ!!父さんが馬に乗れって!」
「クレイトン。僕のことはいいよ。早く行ってくれ」
「っ!バカ!お前も行くんだ!!ローク、ヴィクターを担いでくれ!」
「分かった」
彼らは10代後半の若者だ。ヴィクターは17歳、クレイトンは16歳、ロークは19歳。3人は村で家族と静かに暮らすことを幸せだと思っているごく普通の男たちだった。
「よ、よせって。ふふふ、くすぐったいよ」
「ふざけている場合か!ヴィクター、お前は警戒心が足りん。剣を持った信者たちが村を襲いに来るんだぞ」
「そんなことを言ってもさ……。クレイトンだって剣は使えるだろう?」
「チッ……それはそうだが、相手はガタイの良い大人だ。子どもの俺なんぞ太刀打ちできん」
ロークが黙ってヴィクターを馬に乗せる。
「僕、乗馬は苦手なんだけどなぁ」
「文句を言うな!出発するぞ!」
「ローク、今日はどこまで逃げるの?僕、昨日と同じ場所がいいなぁ」
「……同じ場所だ」
「やった!クレイトン、オアシスだって。僕はあそこが好きなんだ。水浴びしているうちに敵が去ってくれると嬉し……うわっ」
馬が走り出した。
「口を閉じていろ。舌を噛むぞ!」
3人は『いつも通り』、西のオアシスに向かった。
オアシスに着く。3人はゆっくり馬から降りた。
「ふぅ……」
ヴィクターがオアシスを見つめる。
「本当に綺麗だよね。向こうでは紛争が絶えないのに。ここは静かだから忘れそうになるよ」
「そうだな」
「ねぇ、クレイトン、ローク。大人たちはどうして自分の信じる神のためにたたかっているんだろう?それってそんなに重要なこと?」
「俺にもわからん」
ロークも「わからない」と言った。
「僕もクレイトンもロークも大人になったらたたかわなきゃいけないのかな」
「信仰の数だけ、正義がある」
ロークが口を開いた。
「父上の言葉だ……」
正義。
「正義のために、たたかっている……」
ヴィクターが言う。
「しぬ人がたくさんいても、正義は正義なんだ」
「でもさ、もし……もしだよ」
「皆の信仰がひとつになったら……」
「紛争はなくなるかな」
「……そんなことは無謀だろう」
クレイトンがため息をつく。
「何故そうならないか分かるか?ヴィクター」
「……」
「それぞれが信じている神に信憑性がないからだ。目に見える力がないから『あの信仰は嘘だ』『我らが正しい』と思い込んで対立する。絶対的な神を見つけ出さない限り、対立は続くだろう」
クレイトンは静かに言った。
「絶対的な、神……」
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