第2話

シャフマ王国ができる前はその地に当然身分制度などなかった。

「今日もリンゴひとつか」

「腹が減った……」

一足先にリンゴを食べ終わったロークが腹をさする。

「ローク、僕のをあげるよ」

ヴィクターがロークにリンゴを差し出す。

「……いや、お前が食べろ。ヴィクター。お前はこの中で一番背が低い」

「それに病弱だろう。お前はしっかり食え。なんなら俺の分も」

クレイトンが半分齧ったリンゴをヴィクターに押し付ける。

「だ、大丈夫だよ。僕はお腹が空いていないんだ……」

「無理にでも食え」

「よしてくれよクレイトン、僕は本当にいらないんだ……水だけでいい……」

「そんなわけがあるか!」

クレイトンが怒鳴る。

「お前だって人間だろう!?食わなかったらしぬぞ」

「でも……」

「なんだ。言いたいことがあるなら言え」

「僕は……神になりたいんだ……」

「は?」

「父さんが言っていた。父さんが信仰している教えでは断食をすることで神に近づくんだって」

クレイトンが顔をしかめる。

「チッ……そんな教えで体を壊す気かお前は」

「体を壊さないと神になれないんだって」

「そんなのはガセだ。俺の父上は人間は神になれないと言っていた。ま、俺は信じていないが」

「信じているじゃないか!」

「信じてなどいない!」

立ち上がって掴みかかろうとしたクレイトンの襟をロークが引っ張る。

「ぐえっ!?……げほっ」

「信仰は自由だ」

「そうだよ、クレイトン」

「しかしヴィクター、お前のは極端なのも事実だ」

「ロークまで」

「盲目な信仰は身を滅ぼす」

ロークはそう言うと、首から下げていたペンダントを外してみせた。中には微笑んでいる男性の絵が。

「俺の父は信仰の対立で起きた紛争に身を投じ戦死した。ヴィクター、お前がしようとしているのも同じだ」

信仰のためだけにしぬなんて馬鹿らしい。ロークはそう言いたいのだろう。

「ローク……そうだよね、ごめん」

ヴィクターは自分のリンゴを一口食べた。

「美味しい!これ、すごく美味しいね!」

「旬だからとか言っていなかったか?」

「そっか!明日ももらえるかな」

「……期待はして損はないだろうな」

クレイトンが頬を緩めて言った。



(この地は信仰に侵食されている)

(誰もが自分の信仰のみを信じ、他を排除しようと攻撃を繰り返す)

(それは僕が生まれた時には既に当たり前で)

(きっと、これからも続いていくんだ)


(でも)


(でも、本当にそれでいいのかな)


(絶対的な物が1つあれば、皆でまとまってひとつになれるんじゃないか?)


ヴィクターはまだ知らない。

『絶対的な力』はどんなに恐ろしいものなのかを。

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