第6話 デイリー・ノイズ・レコーダー
もし、自分が、雑音だと感じた音や声のすべてが、脳内に記憶として残り続ける能力を持っているとしたらどうなるだろうか。目の前の少女スティーナは言う。
「便利じゃない?だってさ、学校の授業なんかで、先生の話を雑音として認識しつつ、他のことができるんでしょ?メリットしかないよ」
「でも、良いことばかりじゃないぞ」
「そう?起きてる限りにおいて、重要な話を聞き逃すことはないであろう能力って、私からすれば羨ましいけど。あ、もしかして、マローは、そういう能力持っているの?」
「ああ、持っているさ。でもな、俺が持っているのは、正確にさ、能力ではなくて、テクノロジーと呼ばれてるんだ」
「どういうこと?」
とスティーナは理解できないといった顔をしながら、尋ねてくる。俺(マロー)は、彼女のために分かりやすく説明することにした。
「実は、俺は一般的にホモ・テクスと言われている人間の1人なんだ。簡単に言えば、新しい人類ってところ。そして、俺がテクノロジーとして持っているのが、デイリー・ノイズ・レコーダー。これは、今さっき、スティーナが言っていた通り、起きてるいる間は、どんな音も聞き逃すことはないんだ」
「けれどさ、少し前に良いことばかりばかリじゃないって言ってたよね。デイリー・ノイズ・レコーダーっていうテクノロジーのデメリットが感じられるようなエピソードを教えてよ。できれば、面白い話がいいな」
とスティーナは言った。俺(マロー)は、面白いかどうかは不明だがと前置きしたうえで、過去に体験したとある話をすることに決めた。
「これは、俺がホモ・テクスになったばかりの頃の話なんだが、俺は、当時、営業のサラリーマンをやっていてね。それなりに忙しかったわけだ。嘘じゃないぞ。そして、ある時、路上に立っている男2人組のアンケートに協力してくださいって声が聞こえてきてね、その時は仕事中だったから、雑音として認識してそのまま通り過ぎたわけだ」
少女は真剣な表情で聞いている。俺は話を続けた。
「それで、普通の人なら雑音として感じたものは、少し経てば忘れるわけだけど、俺の場合、雑音として耳から吸収した音は全て頭の中に記憶として残るからね。仕事が終わった後、ふと、路上アンケートはまだやっているのか気になってね。行ってみたわけだ。もちろん、やっていたさ。だから、俺はアンケートに協力することにしたんだ」
「アンケートの回答が終わったから、そのままアンケート用紙を男たちに渡して、駅の方に向かったんだ。でも、いざ、駅の中で取り出そうとしたら、なかったんだ。財布が。急いで路上アンケートを行っていた場所に戻ったけど、男たちの姿はなくてね。やられたと思ったよ。結局、徒歩で帰ることになったのは今でも覚えてる」
スティーナは、面白かったとでも言うように、小さな拍手を俺に送ると、こう言った。
「聞き逃さないってことも良いことばかりじゃないんだね。勉強になったよ。マロー、ありがとう」
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