第14話 ビデオ・スリープ

 みんな誰しも、良い思い出ってあるじゃないですか。そういった体験って、もう1度味わいたくなるものだと思うんですよ。でも、時間が無かったり、予約できなかったりで、中々そういう機会に恵まれなくて。それで、現実に体験した良い思い出を、どこかで再び味わいたいっていう人々の需要を満たすために新しく作られたのが、ビデオ・スリープなんです。


 これ実は、過去に開発されたシャッター・アイ、シンキング・セーブ、インスタント・ドリーマーっていう3つのテクノロジーを参考にしているらしくて。だからある意味では、新人類の可能性を試すために作られたものと言っても、良いかもしれないですね。


 それで色々あって、私もホモ・テクスになるのに合わせて、ビデオ・スリープを身体に取り入れた生活を始めたんですよ。まあ私の場合は、好奇心なんですけどね。そしてビデオ・スリープの特徴は、至ってシンプルで、映像として認識した思い出を保存するっていうだけ。でも映像であるなら、頭の中で流れた過去の出来事でも、今まさに体験している瞬間でも大丈夫なんです。未来?さすがに未来は無理ですね。思い出の再現というビデオ・スリープのテクノロジーからは外れているので。


 そこで私、考えたんですよ。現在に起きていることを、普段の自分の睡眠時間分、リアルタイムに映像として変換し続けてみようって。だって、面白そうでしたからね。え、つまらなさそう?つまらなくはありませんでしたよ。後悔はしましたけど。あ、この話、聞きたいんですか?


 分かりました。とはいえ、実際にやったのは昨日なんです。驚きました?昨日の朝からお昼にかけてですね。どうやって、映像保存し続けたかって?長時間することを想定して、自動的に保存するモードがあるんですよ。そうして、最高の体験を夢の中で再び味わうために、最高の1日にしようと頑張っていたら、最後の方で強盗に襲われ、財布を盗まれたんです。信じられませんでしたね。


 何が信じられないかって言えば、自動保存モードが終わりかける時に、強盗が現れたことですね。おかげで夢の中でも強盗に襲われ、汗びっしょり。そのせいなんですかね、寝覚めが良くないんですよ。だから今日からしばらく、自動保存モードを使わずに、自己保存モードを使おうと思うんです。ダメ?ダメって何ですか?慣れの問題だなんて言わないでください。私は少し、逃避したいんですよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る