第5話 タイム・ロッキング・スリープ

 私は、ホモ・サピエンスの時、夜遅くに寝て昼間に起きるという夜型の不規則な生活をよくしていた。しかし、それも過去の話。私は、とあるテクノロジーのおかげで規則正しい生活が送れるようになったのだ。私の名前はクロエ。取り入れたテクノロジーは、タイム・ロッキング・スリープと呼ばれるもの。これは、事前に設定さえしておけば、就寝予定時刻に寝て、起床予定時刻に起きることが絶対にできるというものであるが、もちろん欠点もある。これは、あくまでも仮眠用のテクノロジーなので、2時間以上の睡眠には対応していないこと。そして、睡眠中は、何があっても起きることはないことが挙げられる。


 今日、私は、実験を終えたホモ・テクスに関する研究・調査の協力のために、はるばる遠く離れたこの国に飛行機でやってきた。そして、今は電車に乗っている。なぜ、協力したのかって?それは、お金がもらえるからっていうのもあるけど、それ以上にどんな研究や調査を行うつもりなのか、私自身が知りたかったからである。


 どうやら、電車の席が空いたらしい。よし、座るとしよう。目的地まではおよそ10分。それまでは、暇だな。窓からの景色はずっと一緒だし、持ってきた本も読み終わってしまった。それなら、タイム・ロッキング・スリープを使って、仮眠をとることにしよう。そう思い、私は電車の中で座りながら、寝ることにしたのである。


 あー、むかつく。何がむかつくって、みんなが俺を馬鹿にしたような態度をとるってことが。それも、会社の上司だけじゃねえ。同僚や後輩、挙句の果てには家族にまで馬鹿にされる始末だ。もう、こんな人生は嫌だね。


 俺は、鞄から包丁を取り出し、近くにいた男の背中を刺す。鮮血が飛び散り、俺の服にかかる。周りの乗客は異常な事態に気が付いたらしく、驚きと恐怖の感情を露わにしながら、隣、その隣の車両へと逃げていく。そんな中、全く逃げない1人の若い女の子がいた。逃げないどころか、反応すらしないのだ。それもそうか。寝ているんだもんな。逃げることなくただ座りながら眠る若い女の子に近づくと、俺は包丁を突き刺した。絶えず動いていた心臓の動きが少しずつゆっくりになるのを感じた。次の駅に到着する時間を考えると、遠くの車両にいる他の乗客を狙うのは無理だろう。さて、この電車が駅に着く前に1つだけやることがある。さいごに、付き合ってもらうぜ、相棒。俺は包丁に向け、そう言った。


 電車が駅に着いた。ホームは騒然としていた。当然だろう。包丁によって殺されたと思われる男と若い女の子、そして自殺した加害者が同じ車両に血を流して死んでいるのが発見されたのだから。

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