第4話 モザイク・ワールド

 誰だって、見たくないものは存在する。けれど、そんなものにモザイクをかけられたら?そう、僕が取り入れたテクノロジーは、他でもないモザイク・ワールドだった。見たくないものを手で3秒ほど覆い隠すことで視界から対象を遮断し、任意の時間だけモザイクをかけるだけの単純な機能。それだけの能力なのに、僕はあらゆることにこれを使っていた。家の中で大きな虫を発見した時。テストで悪い点数を取った時。通りでごみが散乱しているのを見かけた時。見て見ぬ振りがすることができるものは全て、モザイク・ワールドを使い、その部分をモザイクにしてしまうことで、一時的な現実逃避をしていた。今にして思えば、それは明らかに状況を悪化させる手段の1つでしかなかった。それなのに、当時の僕はそのことに気づいていなかった。まだ、脳が未熟だったのだ。


 それから数年後のある日、近未来型のスクリーン画面で、全裸の男の写真が拡散されていることを知った。僕と同じホモ・テクスの男性。どうやら、シャッター・アイと呼ばれるテクノロジーを持った人らしかった。助けたかったが、僕のモザイク・ワールドではどうすることもできなかった。モザイクをかける対象は、直接、僕がその瞬間に、見ているものでなければならない。そんな制約があったからだ。僕は、その時から、上手くモザイク・ワールドを活用できれば、他の人の手助けもできるようになるかもしれないと考えるようになった。しかし、そんな僕の考えは、すぐに否定された。ホモ・テクスがそれぞれ持っているテクノロジーは、その人自身にしか影響を及ぼさないことを知ったのだ。つまり、僕がムカデ嫌いな女の子のためにムカデにモザイクをかけても、僕はムカデが見えず、女の子はムカデが見えたままの状態になることを意味している。


 僕は、モザイク・ワールドの活用範囲の狭さに驚き、そして落胆した。これでは、どんなに努力しても、僕自身のためにしか使えないではないか、と。


 それゆえ、僕は、今は、このテクノロジーを利用することなく、生活をしている。僕の見た目は、ホモ・サピエンスと全く変わらないし、能力を使わないことによるデメリットも特にないので、何も困ることはない。もし、他人のために力を使えるくらいまで、ホモ・テクス及びホモ・テクス・テクノロジーの研究技術が発展したのなら、その時は、他人のために手を貸してあげたいと僕は考えている。

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