第7話 シンキング・セーブ
僕(ネゲル)は、自分と同じホモ・テクスの男性のマローとレストランのテーブル席で、喋っていた。いわば、注文した料理が来るまでの雑談である。
そして、僕たちが少し前に開発されたというデジタル・スクリーン・ハウスについて話していた時、注文していた物が運ばれてきた。彼は、大豆ミートのハンバーグ定食で、僕はフィッシュアンドチップス。僕たちは、食事をしながら、先ほどまで話していた会話の続きを再開させることにした。
「ところで、さっきの話に戻るけど、デジタル・スクリーン・ハウスの予約販売がついに始まったみたいだよ」僕は言う。
「壁や床、天井に指で触れることで、映画鑑賞や、情報検索。そして、部屋の全ての面に触ることで、AR(拡張現実)の体験が可能らしいね」とマローは言った。
「うん。でも、住むとしたら他の家がいいよね。快適さが最も大切な家に、そんな機能はいらないよ」と僕は言って、マローに同意を求めた。
「あるとしたら、誕生日パーティーなんかのイベントをするための場所として使われると思うんだ。そういえば、ネゲル。君は最近、ホモ・テクスになったんだったね。君の持つテクノロジーに関する興味深い話を聞きたいんだけど、どうかな?」マローが急に話題を変えて聞いてきた。
何を話せばいいだろうか。迷った末に、僕は、とある失敗談を話すことにした。
「僕のテクノロジーは、頭の中で考えていたことが、外的要因によって中断されることになった場合のみ、それを忘れないように自動で一定時間保存するシンキング・セーブっていうものだよ。そして、とある試験のために、このテクノロジーを使った結果、ある失敗をしたんだ」僕は、あえて間を作って、どんな失敗をしたかマローに予想させてみた。
「わからないね。セーブする内容でも間違えた?」マローは言う。
「セーブできる内容が1つのみということに気がつかなくて、2つ目の内容をセーブした結果、前にセーブしていた古い情報が自動破棄されちゃったんだよ。もちろん、試験は不合格。悲しいね」
「さて、この話はこれで終わり。とりあえず、食事に集中しない?」僕は、マローに提案した。
「確かに。俺もそれに賛成だ。食事に専念しよう、ネゲル」マローはそう言うと、食べることに集中し始めた。
僕も、マローと同じように、黙々と食べることにした。フィッシュアンドチップスの衣のパリッという音とともに、口の中に広がる微かな塩のしょっぱさが、本来はあっさりとした味である白身魚を引き立てていて、おいしく感じられた。ソースをつけて頬張れば、また違った味が楽しめる。僕は、そう思い、皿のフライに手を伸ばした。
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