第10話 スプリング・ランナー

 時々、スポーツの歴史が塗り替えられることってあるよな。そうそう、世界新記録達成みたいな。でもよ、あれってよく考えればスポーツ選手が使う道具の性能が向上しただけだと思うんだよ。特に陸上みたいな競技はさ。でさ、ある人は考えたのよ。技術の限界に挑戦してみたいと。そこで生まれたのが、スプリング・ランナー。これは、ホモ・テクスと呼ばれる新しい人類のテクノロジーの1つなんだ。


 最大の特徴は、速く走れるようになること。これに限るね。足裏に組み込まれたバネが縮んだ時に元に戻ろうとする力を利用して、前に体を押し出してくれるんだ。すごいよな。おかげで、人類の陸上競技の記録はスプリング・ランナーによって大幅に更新された。


 ああ、なんで、急にこんな話をするかって?俺もまた、スプリング・ランナーの1人だからだよ。元々、走るのは得意だったけど、スプリング・ランナーになってから、さらにタイムが良くなったんだ。それで君に頼みがある。俺が今から全力で走るから、スプリング・ランナーの走るスピードをその目で見てほしいんだ。え、大丈夫だって?よかった。君なら了承してくれると信じていたよ。


 僕は、純粋な好奇心からスプリング・ランナーであるロガーの走るところを見てみたかった。だから、ロガーの頼みごとに、すぐに肯定的な返事を返したんだよ。そして、ロガーは目で追えないくらい、とても速く走ってくれた。僕は感謝の言葉と共にスポーツドリンクを渡すために、ロガーのところに駆け寄ったんだ。


 ロガーは、その時、肩で呼吸をしていたんだ。おまけに、すごい汗びっしょりだった。しゃべるのもやっとって感じだったから、ロガーにスポーツドリンクをあげた後、落ち着くのを待って聞いてみたんだ。

「なんで、そんなに苦しそうだったの」って。そしたら、ロガーはこんな風に答えてくれた。

「心拍数が急上昇して、酸素がたくさん必要になったからだよ。それに、テクノロジーのおかげで速く走れるようになったとはいっても、身体がそれに追いついていけないんだ」


 僕はそれを聞いて、思ったんだ。どうして、そんな辛い思いをしてまで速く走りたいと感じるんだろうって。もしかしたら、速く走れる人にしか見えない世界こそが、彼らの心の中にある、より速く走りたいという欲望を大きくさせているのかもしれない。

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